11月FOMC後の記者会見で、パウエル議長はハト派的な発言をことごとく封印した。
「利上げ停止はまだまだ時期尚早だ」
「利上げやりすぎるリスクより、利上げが足りないリスクのほうを重視する」
「12月の金利は、9月に想定していた金利水準より高い」
「経済軟着陸への道筋は狭い」
利上げについて、そろそろ出口戦略の話も、と待ち構えていた市場の淡い期待は、打ち砕かれた。
NY金にはキツイ結果だ。KITCOグラフの緑線のごとく1,620ドル台まで下がってきた。

 

kitco

パウエル議長は、FRBのインフレとの戦いが、事実上、後半戦に突入することを宣言したのだ。
前半戦は超大型0.75砲を連発して、まずインフレ基地に強力な先制攻撃をかけた。
続く後半戦は、0.5砲、0.25砲を用いて、前半戦の効果を確かめつつ、慎重にインフレとの戦いを継続すると見られる。
終戦は、2023年前半、場合によっては2023年後半になるかもしれない。
その時の政策金利水準は5%を超える。
6%近くに達する可能性すら排除できない。
自軍が「不況」のダメージを蒙ることは、もとより覚悟のうえだ。
荒れた経済を修復するための利下げ作戦への転換も必要となろうが、その時期は2024年以降となりそうだ。


そもそも利上げは「速度、高さ、長さ」が問題だ。
市場が注視する0.75%か0.5%かという点は、利上げの速度だが、金利水準を「より高く、より長く」との方針のほうが中期的には重要である。


記者会見でのパウエル議長の発言を聞きながら、筆者は、FRBのトラウマを感じた。
インフレマグマが蓄積しているのに、超金融緩和政策を今年3月まで続けてしまった。
インフレ対応が後手に廻ったという焦りから、0.75%連続利上げとQT(量的引き締め)の合わせ技という荒療治を実施した。
「判断ミスで初手が出遅れた」というトラウマの呪縛は、容易に払拭されまい。
パウエル氏が最も恐れる「インフレマインドの慢性化」を防ぐためには、インフレを根絶やしにするほどの決意が必要となろう。
同氏を悩ますのは、金融政策が「切れの鈍い鈍器」であり「政策効果が確認できるまでタイムラグがあることだ。今回の記者会見でも「ラグ」という単語が頻繁に使われた。
0.75砲を連発しても、雇用コスト指数は年率5%を超え、求人件数は1,071万件まで急増してしまった。
労働市場を見る限り、まだ「利上げが足りないリスク」を重視せざるを得ないわけだ。
対して、市場は「利上げをやりすぎるリスク」のほうを警戒する。
既に不動産市場が悲鳴をあげている。
家賃も頭打ち傾向が出始めた。


更に、米債券市場で不況のシグナルとされる逆イールド現象も、FOMC後、更に、顕著になっている。
政策金利に連動する米2年債利回りは4.7%を超えた。
最近は市場が先走り、先導するかたちで、FRBが追認するパターンが常態化している。
年末から来年にかけて2年債が5%に接近するシナリオに現実味がある。
対して、10年債は4.1%水準に留まる。
不況のシグナルとされる長短金利差の逆転現象も、ここまで進むと赤信号と言わざるを得ない。
3か月物財務省証券まで10年債と利回りがほぼ同水準である。
なお、筆者が、金市場の視点で危惧するパウエル記者会見発言は、「政策金利は実質金利でプラス圏とすべし」との見解だ。
ウイリアムズNY地区連銀総裁の持論で、FOMC参加者の間でも支持論が目立つ。
具体的には、FRBが最も重視するインフレ指標であるPCEコア指数が最新で年率5.1%だが、それに0.5%から1%以上を上乗せした水準で政策金利を設定すべしという議論だ。
実質金利プラス圏だと、金は売られやすい。
金市場としては、聞き捨てならぬ話となろう。
いきなり金価格を冷やすことはないものの、負の効果がジワリ浸透する可能性がある。


かくして市場を震撼させたFOMCが終わり、本日4日には、雇用統計が発表される。
新規雇用者数がこれまで通りのペースで増加して失業率は歴史的低水準に留まる結果になると、既に委縮した株式市場心理に更に冷や水を浴びせかねない。
代表的雇用指標の好転は、強力な利上げ後半戦を正当化することになるからだ。
「祈るような気持ち」で雇用統計悪化を望むとの呟きが印象的であった。
最後に、日本人として最も気になる円安への影響だが、0.75砲連発の前半戦では急速にドルが買われ円が売られたが、後半戦では、円安のスピードは減速となろう。
但し、「より高く、より長く」との利上げ方針が2023年にかけて変わらぬかぎり、円安トレンドに変化はない。
150円から一気に160円というシナリオは考えにくいが、140円より円高水準も調整局面程度の短期現象となろう。
なお、FOMC前後から、筆者は日銀介入の可能性に注目している。
ドルインデックスが111台から一時は113台まで上昇するなかで、円相場が147~148円の水準に留まっているからだ。
休祝日返上の為替介入当局の臨戦態勢が想起される。


さて、FOMC総括のYouTubeライブ配信を行ったのだが、テクニカルな問題が発生して、公開後、取り消した。
今晩4日午後9時頃から、雇用統計ライブも合体して、再度ライブ配信する予定だ。
まだまだ、YouTubeには慣れていないね~。