全ては、トラス英国新首相の大型減税案、突然の発表に始まる。
天然ガス急騰で今冬の暖房費を国が補助する政策もある。
市場では一気に英財政不安が生じ、英国債売りの嵐。
ヘッジファンドも投機的売り攻勢に参入した。
かくしてポンド暴落も含め、「英国売り」の様相となり、イングランド銀行は危機感を強く意識するに至った。
年金運用も危機的状態が想定される。
そこで、突然、量的緩和再開を決定。
緊急時限措置とはいえ、市場は全く想定していなかった。
QE(量的緩和)どころか、イングランド銀行もFRBと同様に利上げとQT(量的引き締め)を実行するとの観測が圧倒的主流であった。
そのQTは延期との発表だ。
英国債先物売りに走っていた投機家たちは完全に逆を突かれ、追加証拠金支払い(マージンコール)を突き付けられた。
損切りが損切りを呼ぶ連鎖で英国債利回りは急落。
この市場異変は直ちにNY市場に伝播。
イングランド銀行は、いざとなれば、暫時、金融緩和に切り換えた。
FRBも、いざ、米国不況入り不可避となれば、利上げとQTは一時停止となるのではないか、との楽観的発想には追い風となった。
既に、来年は利上げ不況で利下げ観測が、FRBは否定するが、市場では絶えなかったのだ。
市場内部要因としては、おりしも米10年債利回りが4%を突破して、投機的米国債売りポジションが蓄積していた。
そこで、イングランド銀行サプライズが格好の利益確定手仕舞いの口実を提供した感もある。
同利回りは3.7%台まで短時間に急落。
一日で20ベーシス・ポイントを超える変動は債券市場でおおごとである。
外為市場ではドルインデックスが114台から112台まで急落した。
米株価は反騰を演じた。そして、金利を生まない金には追い風となった。
国際金価格は1,660ドル台を回復した。
 

kitco

同時に、市場の中央銀行への不信感も強まった。
そもそもFRBは、みずからインフレは一時的との痛恨の判断ミスを犯し、市場は神経質になり、金利乱高下を招いたわけだ。
更に、余波は日銀にも及ぶ。
円買いドル売り介入中にイングランド銀行から思いもかけぬ「ドル売りの援軍」到来の様相だ。
人民元安を持て余す中国人民銀行にも、暫時、朗報となった。
既に、防衛策として、人民元基準値を高めに設定してきた。
銀行の外貨保有高制限や外貨取引コスト引き上げなど、あれこれ、手を尽くしてきた。習近平国家主席3期目の共産党大会を控え、経済波乱は許されない。
かくして、イングランド銀行ショックは、世界の市場を揺らせた。
しかし、FRBも日銀も金融政策の基本的スタンスを、この程度で変えることはあり得ない。
株価は弱気相場入り。外為はドル高トレンドが続くであろう。国際金価格も、この要因で本格上げ相場になるわけではない。
但し、円安は依然、国内金価格には追い風になる。
米国の連続0.75%利上げとQTの引き締め合わせ技に、世界の中央銀行が苦慮する構図は変わらない。
なお、イングランド銀行ショックについて、YouTube豊島逸夫チャンネルで朝7時に8分バージョン、朝8時に18分バージョンをライブ配信した。



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