11日、注目の米4月消費者物価上昇率が8.3%と発表された。
8%台が続くようでは、インフレヘッジとしての金買いが加速してNY金が2,000ドル超えても不思議はなかろう。しかし、現在は1,850ドル台だ。
11日には、ブラード・セントルイス連銀総裁が「8.3%はホットな数字だが、当面0.75%利上げが必要ではない」と発言した。
FRBのタカ派姿勢への転換を主導した人物ゆえ、「8%台の高水準が続き、いよいよ0.75%利上げも必要」とコメントしそうだが、意外に大幅利上げに慎重であった。
この、タカ派主導者でも慎重な姿勢を見せた背景には、3つのインフレ指標の変化が指摘される。
まず、年率8.3%とはいえ、上昇ペースが8か月ぶりに鈍化したこと。
更に、FRBが最も重視するPCEインフレ率にも鈍化傾向が表れてきたこと。
2021年11月4.7%、12月4.9%、2022年1月5.2%、2月5.3%、3月5.2%と推移している。
そして、9日に発表されたNY地区連銀による「米消費者の今後1年の期待インフレ率」も、中央値で0.3ポイント低下して6.3%となっている。米国家計の実感度を示す統計として重視される。
この3つのデータにより、インフレはピークアウトとの議論が依然根強いのだ。
さすれば、金には下押し圧力がかかる。
とはいえ、どのインフレ統計も、依然、高水準にある。
それゆえ、市場も5月6月7月連続0.5%利上げシナリオは織り込んでいる。金市場も覚悟している。
なお、0.75%利上げは、パウエル議長自ら慎重な姿勢を見せていたものの、FOMC参加者、特にタカ派の意見が注目されていた経緯がある。
次回の各種インフレ統計で、鈍化傾向が続けば、0.75%利上げは、かなり遠のくことになろう。
とはいえ、ブラード氏は、年末の金利レンジとして3.25%―3.5%を11日にも明示していた。これは中立金利を遥かに上回る高い数値だ。
かくして、金価格にはインフレ懸念による上げ圧力と利上げ加速による下げ圧力が依然交錯する。
11日の米国金市場でも、午前は「鈍化」が意識され金価格は下落したが、午後になり「やはり絶対的高水準」が嫌気され、 NY金は持ち直した。(KITCOグラフ、緑線)
金利の上昇スピードに関して見解が割れるなかで、金価格も揺れている。
さて、最近は、機関投資家たちとのセミナーが多いのだが、金のトンデモ本に書かれているような突飛なストーリーを真面目に受け止めている人たちが多いのには驚く。
金市場ではあり得ないことでも、知見が全くといっていいほど無いので、真偽の判断が出来ないのだ。
株や為替のプロでも、金となるとトンデモ本にコロリと洗脳されている事例が目立つ。
そのような誤解を解明することも筆者の役割と感じているところだ。
「有事の金」とか「金本位制」とか、オジサンたちのハートを鷲掴みにするような表現のようだ。
金業界内でも特に商品先物関連のセミナーでは、まことしやかに、語られる傾向がある。
筆者のところにも、トンデモ本著者と二本立ての金営業セミナー企画を持ち込まれたことが数回あり、即断った。
トンデモ本作家のなかには外務省出身などの経歴の人物までいるから驚く。
かと思えば、筆者は九大のビジネススクールで4時間以上講義して、更に、中洲で延長戦に及んだこともある。
まともなレクチャーなら、喋り出すと止まらない傾向があるのだ(笑)