昨日は、アジア時間で金国際価格が2000ドル再突破後、NY時間帯で2010ドル台から一気に瞬間タッチで2071ドルまで急騰後、2020-40ドルのレンジで揉み合っている。
ウクライナ国内核施設の更なる追撃もあり、核の脅威が強まり、核戦争に対する備えとしての「有事の金買い」が絵空事では片づけられぬ事態だ。市場用語を使えば、ウクライナ戦争という地政学的リスクで安全資産としての金にマネー流入ということだ。安全資産として米国債も買われ、米ドルも買われ、ドルインデックスは100の大台寸前だ。国債の買いが増えるとドル金利には下落圧力が加わり、これは金の買い材料ともなる。安全資産としての米国債なかりせば、10年ドル金利は2%を突破していたであろう。すっかり弱気相場入りした株式の下落傾向も金の上げ材料だ。昨日、特に金価格が2020ドルから2070ドルへ数時間で急騰する過程では、バイデン大統領のロシア産原油輸入禁止発表があった。米国はそもそも原油生産国でロシア産原油輸入は限定的だが、「ロシアの戦費を賄うごとき行動は出来かねる」とバイデン氏は一蹴。米国が経済制裁を強めれば強めるほど、追い詰められたプーチン大統領もウクライナ核関連施設爆撃、更には、核兵器の照準を合わせるくらいはやりかねないので、市場は神経質になる。原油先物価格は依然続騰でインフレ感は強まる。
更に昨日はニッケル先物価格が暴騰。(↓KITCOニッケル価格)
これは絵に描いたようなショート・スクイーズだ。取引所のLMEは異例の取引停止。中国生産者の先物売りポジションが、期日が来ても現物の受け渡しも、追加証拠金支払いも出来ず、強制手仕舞いでボコボコに締め上げられるケースだ。今回は特にニッケルという希少金属の主要生産国がロシアということで、単なる投機的大損では済まされない。
商品先物市場の異様な雰囲気はNYMEXにも飛び火。トレーダーも喧嘩腰でビリビリしていた。大荒れ模様のなかで、特に金と銀が狙い撃ちで買われた感もある。ロシア産原油禁輸以外に、特に大きな材料はない。上げのモメンタム(勢い)に乗って買い上げられた。
明日には米消費者物価指数発表、来週にはFOMCを控え、インフレ耐性の強い金が買われやすい地合いもある。但し、FOMCで利上げ回数が6回とかの数字になると、これは金利を生まない金にはツライ。
更に、2000ドル以上は、実需不在(現物市場は世界的には圧倒的売り超過)で先物主導の真空地帯ゆえ、ひとたび潮の目が変わると、昨年の2000ドル突破後と同じく、ガツンと売り叩かれやすい。とはいえ米金融政策に目を向ければ、パウエル議長がインフレ対応で後手に廻り、焦って集中的に利上げしすぎると、スタグフレーションを招くリスクがある。物価は上がるは、不景気になるは、で最悪のシナリオだ。利上げで短期的に金が売られても、中期的には金独り勝ちのシナリオともなる。
かねてから筆者が述べてきたことだが、今年、金を買うという投資行為は、FRBパウエル氏に対する不信任票。もし、パウエル氏が、金融超緩和から引き締めへの歴史的大転換を海図なき航海で乗り切れば、めでたく米経済ソフトランディング。ほどほどのインフレとほどほどの経済成長で、金の出番はない。パウエル氏を信じられれば金を買う必要はない。金価格が2000ドルを突破したことは、市場がパウエル氏を信じていないことの証しだ。通常、有事の金は短命だが、今回は、この金融政策不安が同時進行しているので、これまでより長持ちしている。
どこまで持つか。これは、プーチン次第、ウクライナ戦局次第。パウエル次第。急転直下、妥協ともなれば、金の下げもきつかろう。なお、オミクロンの問題も未だ要経過観察だ。