13日にはブレイナード現FRB理事の副議長指名承認のための公聴会が開催された。
ブレイナード氏といえば、そもそもバイデン大統領の次期FRB議長指名の際に、現職パウエル氏の対抗馬であった。
バリバリのハト派で、万が一、同氏が議長職に指名された場合の市場の反応は「利上げ遠のく」となろう、と論じられたものだ。
更に、今回の副議長職の指名にあたっては、サンフランシスコ連銀デイリー総裁が対抗馬とされ、「ハト派女性二人の一騎打ち」などと市場では囃されたものだ。
「承認」されれば、理事から副議長への「昇任」ともなる。
そのブレイナード氏が、議会公聴会では、見事にタカ派に変身してみせた。
利上げ、資産圧縮などの「パワフルなツール」を躊躇なく使うと語ったときには、「これが、あのブレイナード氏か」とのサプライズ感があった。
「インフレ率は高すぎる。国中の働く人たちは、今の給料でやってゆけるのか心配している。
我々の金融政策はインフレを2%に戻し、且つ、全ての国民のために経済を回復させることだ」
働く人たち、全ての国民、などの表現にはバイデン大統領を意識したポピュリストの匂いも漂う。
ウォール街が警戒するのは、同氏が規制強化派であること。
それゆえバイデン氏のお眼鏡に叶ったことは確かであろう。


ブレイナード副議長議会承認に関しては、パウエル議長より反対票が多いとはいえ当確が打たれている。
更に13日にはハーカー・フィラデルフィア連銀総裁(タカ派)が複数回メディアに出て、利上げ3~4回を支持した。
連日、ここまでタカ派色が強まるFRB新体制を見せつけられると、市場は、パウエル氏が利上げを急ぎ過ぎるリスクを意識するようになる。
例えば、オミクロン株或いは新たな悪性変異種の出現で経済が悪化する場合には、パウエル氏は利上げの暫時棚上げを強いられよう。
その場合、複数回利上げを既に織り込んだ市場は、ポジションの巻き戻しを強いられ混乱するであろう。
雇用についても不透明感が残っている。
パウエル氏は、失業率が4%を割り込んだことで、利上げの条件である完全雇用をほぼ満たす「最大雇用」が達成されたと見ている。
しかし、未だ、300万人以上の「隠れ失業者」が残っている。
求職活動はしていないので、雇用統計上で失業者とは見なされないのだが、当面働く気はない人たちだ。
彼らは、コロナが収束するまでは様子見を決め込む。
いずれ復職する意志があるが焦ってはいない。
当面は、子育て、自己研鑽などに時間を割き、郊外に暫時転居して家族との時間を大切にする。
米国の所謂ミレニアル世代に多いライフスタイルだ。
コロナ給付金や失業保険加増更に自粛中の貯金などで金銭的には未だ余裕がある。
雇用統計上では、コロナで勤労意欲を失った高齢者とともに、労働参加率がコロナ前の水準に戻らない理由とされる。


それでもパウエル・ブレイナード新体制のFOMCが利上げを急ぐにあたって、インフレ問題で支持率低下加速中のバイデン大統領への政治的配慮はないと言い切れるのか。
クラリダ現副議長に、新たな個人的株式投資問題が発覚して、予定より2週間早く辞任したことで、FRBへの信頼感もやや揺らいでいる。
市場の合言葉も「FRBには逆らうな」から「FRBを疑え」に変わりつつある。
市場では、ブレイナード副議長はパウエル議長のお目付け役ではないかとも囁かれる。
そもそも利上げ年内3-4回、更に、FRB資産圧縮が年内開始と見られているが、未だ何も決まっていない。
全てはFOMC参加者の個人的予測の段階である。
それゆえ、株式市場のボラティリティが激しくなっている。
この状況は3月まで続きそうだ。
更に、米国消費者物価上昇率7%発表後、外為市場ではドル安に転じ、債券市場では長期金利が低下中だ。
FRBを信じ切れない投資家たちが、国債売り、ドル買いの人気トレードをとりあえず手仕舞う動きが顕在化している。
そして、金市場では、FRBを信じられず、インフレを抑え込めず、制御不能になるリスクを感じている投資家たちが金を買っている。