12月米消費者物価指数(CPI)は前年同月比7%増と39年ぶりの伸びを見せた。
インフレ懸念強まり、国際金価格(KITCOグラフ、緑線)はジワリ1,825ドルまで上昇。ここから更に上昇するか。
正念場だ。

 

kitco

これほど物価が上がれば、ドル金利も上がるはずだが、米債券市場では10年債利回りが1.7%台で軟化傾向。
これはサプライズ。金にとっては、インフレ懸念で金利は上がらないと願ったり叶ったり。スタグフレーション懸念になる。
国民生活の視点では最悪のシナリオだが。


背景だが、債券投機筋の多くは、CPIの劇的な上昇を予測して、10年債売りポジションを膨らませていたのだ。
それが逆目に出て、慌てた空売りの買い戻しが集中したのだ。更に、そもそも米10年債には長期保有の安全資産として根強い需要がある。
12日には新発10年債の入札もあった。結果は総額360億ドルが1.723%で値決めされた。
入札倍率は2.51倍。まずまずの好結果とされる。
なお、政策金利に連動する2年債の利回りは微増したので、長短金利差は縮小気味。景気後退を示唆する「イールドカーブ平坦化」の不気味な兆しかと市場は警戒する。
これもリスクオフの兆しゆえ、金には追い風。


いっぽう、今年に入り、市場の期待インフレを示すBEI(10年ブレークイーブンインフレ率)は、1月3日の2.60%から12日の2.48%まで下落している。これは金には逆風。
この債券市場での異変は、外為市場に飛び火。ドルが急反落した。
ドルインデックスは95台半ばから94台半ばまで下落。
円相場も114円台半ばまで円高が進行した。
ドル買いポジションを膨らませていた通貨投機筋が慌てて売り手仕舞いに走ったのだ。
この意外な展開を見せつけられ、米国株式市場は当惑した。
株価指数も終日、前日比プラス圏とマイナス圏の間をさ迷った。
前日のパウエル議会証言後の安堵感が、未だに余韻として残り、引け値は僅かながらもプラス圏を維持した。


さて、金市場が気になるのは、米消費者物価の高水準がいつまで続くのか。
まず、米労働省発表の統計数字を精査すると、幅広いセクターで物価が上昇している。
急上昇の分野もあれば、殆ど動きがない分野もあるのだが、その急変動の分野を外した中間値をクリーブランド連銀が発表している。
この数字は、12月で3.8%と、コアCPIの5.5%より更に低い。
この中間値が、今回のインフレ傾向の実態の目安とも見られる。
それでも、インフレ傾向が、FRBが警戒する「定着」状態になる可能性もある。
供給サイドと需要サイドの価格上昇が共振する複合構造になっているからだ。
コロナ給付金や失業保険給付増額などで消費者は家具・家電など耐久財などの購入を増やした。
ところが生産が追い付かず、流通も滞り、末端価格が上昇した。
それでも消費者はコストアップの転嫁を受け入れているが、この部分の物価上昇は年内にも収束しそうだ。
対して、人手不足による賃金上昇や、家賃などは、下がりにくい。
更に、インフレは政治問題化している。

バイデン大統領はインフレ退治策として、港湾やトラック運送など供給サイドに直接介入する対応策を連発しているが、いずれも小粒で供給インフラを変えることは時間もかかる。
皮肉なことだが、看板政策を盛り込んだ200兆円規模の財政支出案は一人の民主党上院議員の造反で暗礁に乗り上げた。
実現すれば、インフレ加速要因となるところだ。
苦し紛れにバイデン氏は「需要サイドを絞り、国民生活を貧しくさせれば物価は下がるだろうが、私は、そのような政策を良しとはしない」と語っている。
いっぽう、パウエルFRB議長が繰り出す金融政策は、まさに需要サイドを引き締めることでインフレ制御を目論む。
「物価は雇用と並び中央銀行が守らねばならない。
現在のインフレは経済混乱リスクを孕むので国民生活を守るための利上げは必要」と語る。
もし、インフレが制御できないと、中間選挙大苦戦が予想されるバイデン氏からパウエル氏に政治的圧力がかかる可能性もある状況だ。


かくして新型ウイルス由来の新型複合構造インフレは、パウエル氏の言うように「年のかなり後半まで続く」ばかりか、2023年まで「定着」リスクもある。
金市場のメイン・テーマも2023年まで「インフレ」が継続する可能性が出てきた。
率直に言ってプロの立場でも、なんとも悩ましい。
インフレヘッジで金は買われやすいが、利上げを年4回も実行されると、金利を生まない金が耐えられるか。
名目金利とBEIから算出される実質金利が最終決定要因となろう。
ドル実質金利の現状マイナス幅が縮小すれば1,700ドル。
万が一、ドル実質金利がプラス圏に浮上すれば1,500ドル。
いっぽう、パウエルFRB議長が利上げのタイミングを誤り、インフレが中期定着すれば1,950ドル。
2,000ドルも視野に入る。


為替の円安は、今朝の日経朝刊でミスターYENの榊原元財務官が、何気なく(笑)130円と予測していた。
この人は、天皇金貨のときの財務省担当者で筆者も知り合いだが、円高派かと思いきや、いつのまにか円安派に転じていた。
理想論として、これからの日本には円高のほうが国益なのだが、と語っているのが興味深い。