今週の国際金価格は、米国金融政策がテーマ。
金融正常化、利上げ、FRB資産圧縮などがテーマとなり、昨日は、今週のメインイベントであるパウエルFRB議長指名承認公聴会の後で金価格は1,820ドルレベルまで上昇した。
パウエル議長への議員質問が、インフレ問題に集中したので、あらためてインフレリスクが金市場では意識されている。
株式市場では、パウエル議長のそつない対応が評価され、株価も上昇。


以下は、米国金融政策問題について、最新の状況を詳述。

日本の連休中、米国市場では、12月雇用統計を受け、金融政策に関する様々な議論が噴出した。
まず、ダドリー前NY連銀総裁が、米経済テレビで、現FRBを公然と批判した。
「FRBの見方は現実離れしていて甘い。12月FOMC後に発表されたFRB経済予測では、2024年のインフレ率予測中心値は2.1%なのに、同年の政策金利(FFレート)予測中心値も2.1%。これは自然利子率2.5%を下回る水準だ。この程度の金融引き締めで、インフレが魔法の如く消え去ると本気で思っているのか。現FRBの人たちからの批判は覚悟のうえだ。」

ダドリー氏といえば、FOMCではハト派の筆頭格であった。
NY連銀は、他の地区連銀と異なり、常任でFOMC投票権を与えられる特別扱いで、オピニオンリーダーの役割も果たしている。
それゆえに前総裁の意見とはいえ、ウォール街でも話題になるのだ。
2022年利上げ回数についても聞かれ、年内4回か5回で、毎FOMCごとに連続利上げの局面もあろう、と答えている。
ダイモン・JPモルガンチェースCEOもテレビインタビューで「インフレが想定より悪化して、利上げ回数も想定より増える可能性がある。
個人的には年4回だけなら驚きだ。」と語った。
同氏は、特に消費者のバランスシートが改善して消費が極めて旺盛であることに時間を割いて力説した。
「運が良ければ、FRBはソフトランディング(軟着陸)を実現できよう。
しかし、紆余曲折あり、ボラティリティ(価格変動性)は激しくなろう」とも警告している。
ダイモン氏は、米国を代表するバンカーだが、その奔放な物言いは、時折舌禍事件を誘発してきた。
昨年11月には「JPモルガンチェースが中国共産党より長く存続するであろう」と語り、翌日には「あのような発言はするべきではなく後悔している」と発言を撤回している。
雇用統計後の論戦には、サマーズ元財務長官も参戦。
今回の雇用統計で平均時給が前年同月比4.7%増加したことを重視して、労働市場は逼迫しており、インフレを冷やすことが必要と強調した。
FOMC参加者の現役組からは、バーキン・ロッチモンド地区連銀総裁が発言。
今回の雇用統計発表後の見解として、3月利上げ予測を肯定した。非農業部門新規雇用者数が事前予測を大幅に下回ったものの、失業率が4%を割り込んだことがFRB内では重視されているようだ。
但し、同氏、労働参加率が低位に留まり、未だ350万人の労働者が労働市場への復帰を躊躇っていることを指摘。
現状を「暫時完全雇用」と表現した。同氏はFOMC内で中道派と見られている。


そして、昨日は今週のメインイベントともいえるパウエルFRB議長指名承認のための議会公聴会が開催された。
パウエル氏は、市場が懸念する二つのシナリオを念頭に、慎重に言葉を選びつつ答弁した。
そのリスク・シナリオとは、まず、金融政策転換のタイミングが後手後手に廻り、インフレ傾向が定着してから、慌てて、利上げと資産圧縮を加速させる展開。
もうひとつは、そのタイミングが前のめり気味に早すぎて、ディスインフレ傾向が顕在化するケース。
実は、パウエル氏は、議長就任後に、資産圧縮のタイミングに関して「自動操縦」と語り市場を混乱させた苦い経験もある。
そこで、今回は、「自動操縦」ではなく、コロナ変異種などで目まぐるしく変化する経済環境に臨機応変の姿勢で対応することを強調した。
これまでパウエル氏が好んで使う単語が「忍耐強く=patient」であったが、今回は、「柔軟に対応=nimble」という単語を用いた。
利上げ回数や、資産圧縮の具体的予定に関しては、「検討中だが、今後の情勢を見極め決める」姿勢を強調していた。特に具体的にコミットはしていない。コロナ由来のインフレを当初は一時的と語ったことは、判断ミスと率直に(あるいはアッサリと)認めている。
基本的に「コロナ要因が最も重要」と見做し、医療専門家と常に話し合い、情報収集に努めているとも語った。
議員たちとの個別の根回しも入念に行ったようで、数名の議員から「先日はわざわざ丁寧に説明していただいた」との謝辞が述べられた。
筆者の注目は、FOMC参加の高官たちによる個人的株式投資の件であった。
公聴会直前にはクラリダ副議長の新たな個人的株式売買の事例があらたに発覚して、予定より2週間早く辞任となった。
この事例は、コロナ有事対応で、FRBの大型金融支援策が決定された時期の前後に個人的に株を売買。
更に、内部報告を修正したことも明らかになり、クラリダ氏が辞任に追い込まれた。
パウエル議長の右腕とも呼ばれた人物だけに注視されたのだが、結果的には、根回しが効いたのか、「きつく叱りおく」程度で厳しい追及は免れた。
内部倫理規定を大幅に改訂するとのことである。
なお、パウエル議長公聴会を視野に、FOMCメンバーの地区連銀総裁たちが11日にも相次いで自説を語った。
今年FOMCでの投票権を持つクリーブランド連銀メスター総裁(タカ派)とアトランタ連銀ボスティック総裁(投票権なし)は、3月利上げを支持。カンザスシティ連銀ジョージ総裁(投票権あり、タカ派)は、資産圧縮を優先して急ぐべし、と語った。
これら地区連銀総裁の発言により、FOMC内部がタカ派寄りにピボット(転換)していることが、パウエル議長が語らずとも伝わってくる。


利上げは、金にとっては逆風。
とはいえ、インフレ懸念が追い風となって金価格は上昇した。
市場内部を見ると、利上げを重視して金が売られる局面と、インフレ懸念を材料視して金が買われる局面と、交互に現れている。
株・ドル含め、教科書通りには反応しない局面も頻発する。
それだけ、市場も迷っているということだ。
最も重要なことは、ドル実質金利が依然マイナスであること。
債券には逆風だが、金と株には追い風である。