今年の金市場は、前年に史上最高値を更新した後で、相対的には静かな一年であった。
1,600ドル台まで急落することはあったが、短命に終わった。
2,000ドルを回復することはなかった。
それでも、レンジとしては、歴史的な高値圏を維持したといえる。
コロナ禍で米国株価が史上最高値を更新するなかでも、株への高値警戒感から、マネーが米国債や金などの安全資産に流れる現象が続いた。
米国債が買われた結果、ドル金利が思ったほど上がらず、10年長期金利で1%台に留まったことが、金利を生まない金には追い風となった。
更に、生産制約や人手不足によりインフレが顕在化したことでインフレヘッジとして金が買われた。
いっぽう、FRBがテーパリング(緩和縮小)から利上げへと金融政策の方向転換を検討し始めたことは、金には逆風となった。
インフレと利上げの綱引きのなかで、結果的に狭いレンジでの展開になったといえる。


外為市場ではドル高傾向となった。
本来、ドル高は金には売り材料なのだが、金価格はさほど強く反応しなかった。
長期的に国際基軸通貨としての米ドルに対する信認が低下していることが底流にある。
需給面では、国際金価格が1,700ドル台になると、インド・中東・中国などの現物需要が増え、所謂バーゲンハンターたちがレンジの下値を支えた。
特に前年2020年にロックダウンにより金のサプライチェーンが破断されたことでペントアップ(溜まった)需要が噴出した時期もあった。
いっぽう、1,900ドルに接近すると、リサイクルの売りが増えて、需給が緩み、相場の頭を抑えた。
中央銀行による公的金購入も新興国を中心に継続した。


対して、金ETFからはマネーが流出した一年であった。
ここでは、ビットコインへのマネーシフトが注目された。
そして、コロナの変異種が出現したことが、結果的には金には買い材料になった。
特にバイデン大統領が兆ドル単位の財政支出を行ったことで、過剰流動性の一部が金市場に流入したことは否めない。
自粛・自宅待機で、ヒマとカネを持て余した若者たちが、ゲーム感覚で投資を始めたことが市場の波乱要因にもなった。
円建て金価格に関しては、円安により、下がりにくい状況が続いた。
ドル建て金価格下落時には下げ幅を相殺、逆に、上げる時は増幅させる効果があった。
テクニカルには、金ETFに代わり、NY先物価格が金価格の短期変動要因となった。
その結果、短期的にはボラティリティ(価格変動)が激しくなる傾向も見られた。


以上、振り返ってみると、年間レンジは狭かったが、様々な要因が交錯する一年であったと言えよう。