今月利下げを織り込んだ株式市場にとって、最も困るシナリオは7月FOMCでの利下げ見送りだ。
したがって、パウエルFRB議長が議会公聴会で米国・世界経済を悲観的に語れば語るほど市場は安堵する。
6月雇用統計の如く、かなり良い経済指標が出ると、途端に神経質になる。
このようなセンチメントが市場を支配する状況で、注目のパウエル議長議会証言が始まった。
被告席の如き位置に3時間以上座らされ、入れ替わり議員たちが、質問を投げかける。
イエレン議長のときは、痛々しいほどであった。FRB議長の恒例行事とはいえ、体力勝負だ。
息はぬけない。不用意な一言が株価急落を誘発する。
質問というより制限時間内で、選挙区向けの演説を始めるかの如き言動も目立つ。
「オピオイド=麻薬性鎮痛薬が我が選挙区では蔓延している。その経済的影響は如何に。」などと質問されてもFRBの管轄外の話であろう。
それでも、パウエル議長は「あるエコノミストはオピオイド常習者の44%が労働市場から離れていった」と労働参加率への影響に言及するなど、そつなく、こなしていた。
マーケットの視点では、想定通り利下げがあるとしても、その内容が気になる。
経済減速・失速を回避するための予防的利下げ(英語では保険利下げ)であれば、当面1回で済むはずだ。あとは要経過観察となる。
しかし、米国・世界経済の症状が既に重篤であると判断されれば、7月緊急0.5%利下げも視野に入る。あるいは、年内3回利下げも必要となろう。
低インフレも中央銀行にとって最重要級の問題だ。
たまたま一過性で好転しても、その症状が既に慢性化しているとの所見となれば、継続的利下げの処方箋が求められよう。
そこでマーケットは議長発言、そして、偶然にも議会公聴会一日目終了直後の発表となった6月FOMC議事録に、なんらかのヒントを求める。


結果から言うと、パウエル氏はほぼ一貫して悲観的であった。
貿易摩擦、ブレクジット、米国財政赤字上限問題と具体的に三つの要因を挙げ、その影響を危惧した。マーケットにとっては心地よい響きの発言であった。
唯一、市場が警戒モードで反応したのが、「我々の基本シナリオは米国経済が堅調(solid)」と語ったときだ。
「7月FOMCまでに、まだ、米GDP発表、小売り統計、インフレ統計など重要指標あり」とも語り、市場の先走りをけん制していた。
しかし、楽観発言は、3時間余りのなかで、ほんの一時に過ぎなかった。
たたみかけるように、6月FOMC議事録にも、ベージュブックの如く、全米各地から地区連銀経由で寄せられる現場の懸念発言が並んだ。
会合でも「出荷減、新規受注減、企業業績悪化予測、製造業衰退、輸出不調」の報告が相次いだことが記されている。
更に「世界経済の不確実性は中期的に顕著で、企業投資の重荷になっている」との現場証言も引用されている。
ちなみに、この不確実性という単語が、議長議会証言では26回繰り返されたと米国CNBCは報じていた。
インフレについても、金融緩和政策がインフレ過熱リスクありと考えるFOMC参加者は18名中、2-3名(a few)であった。
公聴会では、パウエル議長が、「なにかをホットと言うからには、なんらかの熱が必要だ」との表現で、経済の低体温症状に言及した。
想い起せば、インフレ指標が急落した直後に同氏は「これは一過性」と語ったものだが、今や、インフレ好転しても、それは一過性、との見方に180度転換しているようだ。
2%達成への道は遠い。

なお、この議論で必ずと言っていいほど引き合いに出されるのが「日銀」である。
ウォール街でも日本株は話題に上がらず、構造的低インフレの代表格としてジャパンの名前が先ず挙がる。
「日本の二の舞だけは避けよ」などと語られる。
最後に、そもそも0.25%程度の利下げしたところで、実体経済の何が変わるのか、という冷めた議論も市場では頻繁に交わされる。
金融政策限界論だ。
FRBの利下げ余地といっても2%強ほど。
ではマイナス金利は、との話題になると、欧州の最新状況が話題になる。
マイナス金利が国債から社債へ、そして、チェコやポーランドなど東欧諸国まで広がりつつある。
それでも債券買いは続く。
今や、世界の政府系ファンドの運用配分は、債券が株式を上回る状況になってきた。
米国株価は最高値更新中だが、同時進行的に、株価の高値警戒感・ボラティリティの高さが長期投資家にも嫌われ、マネーの一部は駆け込み寺の如く債券に逃げ込む。
但し、マイナス金利ということは、債券の保有者が金利を払うという、いわば有料駆け込み寺である。
金融政策の限界が誘発した異常現象と言えよう。
市場の金融政策依存症もいつまで続くのか。
10日のNY市場では、金価格が1,390ドルから1,420ドルまで突出して跳ねた。
ドルの代替通貨として金が買われるという現象は、FRB金融政策への不信を映す。
金色の駆け込み寺も盛況である。
金融政策依存症が金融政策不信症に変わる兆しとも読める。

 

金価格 グラフ