16日の国際金市場はドラマチックな展開となった。
(KITCOグラフ、緑線)。
まず、アジア時間から欧州時間に移行する取引の薄い時間帯を狙った投機筋の仕掛けで1,870ドル超にいきなり急騰。
いよいよ1,900ドル視野かと思わせた。
しかし、その後、16日のメインイベントである米小売売上高発表をキッカケに1,850ドル台まで急反落。
その過程を以下、詳述する。
11月ミシガン大学消費者信頼感指数は66.8と2011年以来の低水準であった。
しかるに、10月米小売売上高は事前予測を上回り前月比1.7%増を記録した。
3か月連続の増加だ。
同日発表された小売大手ウォルマートとホーム・デポの決算が、その実態を映す。
年末商戦に向け物流停滞でお目当ての商品が品切れになる前に消費者は購入を急ぐ。
株式市場と同じくFOMA(取り残される不安感)が消費者心理を揺らす。
小売業者も在庫を積み増す。
問題は、消費者が予め決めた購入予算を守り、追加消費は控えるのか。
或いは、自粛の反動で財布の紐を緩めるのか。
小売業者側も供給網確保を急ぐ。
大手は、自前でコンテナ船を貸し切り、混雑する大規模港湾を避け、懸案のトラック運転手も確保に動く。
しかし、中小は苦戦が続く。
部門別でも外食などサービス業は回復が遅れている。
依然、人手不足、素材価格高騰、顧客の感染不安の三重苦に悩む。
かくして、セクター別濃淡はあるものの、30年ぶりの6%台を記録した米消費者物価上昇率を転嫁されても消費者の購入意欲は底堅いと見える。
消費は米GDPの約7割を占めるので、JPモルガンは10-12月期米GDP予測を早速4%から5%に引き上げた。
市場の利上げ期待は強まり、外為市場ではドル全面高となった。
ドル高、金利高という二つの逆風を受け、金には売りが殺到。
なお、CPIショックと小売サプライズのダブル効果を受け、市場では、インフレ一時的とのパウエル見解に対する疑念が益々強まってきた。
インフレが一時的ではなく、利上げが後手に廻るリスクと、FRBが利上げに踏み切ってから、インフレがピークアウトして、利上げ撤回に追い込まれるリスクの二つのシナリオが意識されている。
FRB議長人事も、いよいよ、4日以内に発表とバイデン大統領が明言したが、市場は冷静だ。本命パウエル氏、対抗ブレイナード氏、どちらも筋金入りのハト派とされ、市場が最も懸念する金融政策の継続性は保たれると見られるからだ。
議長パウエル氏、規制強化担当副議長ブレイナード氏の組み合わせが現実的な選択であろう。
金市場特有の要因として注目すべきは、今回の金急騰劇の過程で金ETF残高が増えていないことだ。
いっぽう、COMEXのオープン・インタレスト(取組高)は、特にCPIショック後、急増している。
ETF主導であった昨年に比して、今年は先物主導という点が異なる。
ETFは、ヘッジファンドでも中期で動くグローバル・マクロ系などが買ったが、先物となると、短期投機一色だ。
はっきりいって、丁半博打の世界となる。ドンと上げても短命で終わるだろう。
年内、急激に上がると、来年は下げの年になりかねない。
ボラティリティが高くなるのは間違いない。
そして、円安が加速中なので、円建て金価格が、売買仲値ベースで7,000円突破もあり得るが、金価格上昇が先物主導だと、長続きしない。
理論値でいえば、為替114.60円と金国際価格1,900ドルで7,000円になる。
なお、本欄読者は長期投資派が多い(はず)なので、ばたつくことはない。
いずれ金3,000ドル突破の流れは変わらない。
コロナ自粛のうっぷん晴らし消費したい人は、一部売ればよい。