2022年、金相場はどうなるか。個人投資家はどう考えるべきか。


ずばり、結論からいえば、パウエルFRB議長を信じられれば、金は売り。
信じられなければ金は買いだ。
基本的な市場の構図を見るに、金市場は、利上げという金利を生まない金には強い逆風といえる売り材料と、インフレという実物資産の金には強い買い材料の対決の場となろう。
その場の仕切り人こそパウエルFRB議長。
米国の消費者物価上昇率が年率5%を超える状況のなかで、このインフレは一過性、2022年以降には年率2%台に収れんしてゆくと論じてきた。
ところが、足元でインフレ鎮静化の兆しは見えず、生産制約由来のインフレは長期化必至との見方が市場では増えている。
さすがのパウエル氏も、議会公聴会の場で、「想定より長引いている」と認め、珍しく感情をあらわに「不快な現象だ」と苦々し気に語る一幕もあった。
FRBの基本的スタンスは、年率2%以上のインフレのオーバーシュートは許容範囲内とする。
これまでディスインフレの時代が長かったので、インフレ上振れの時期が長引いても当然との見解だ。
そこで金融政策も、基本的に緩和姿勢を維持してきた。
但し、「経済の有事対応策」とされる量的緩和の必要性は徐々に薄まるとの判断で、緩和量(毎月の国債・住宅担保債券購入額)は減らしてゆく方針だ。
所謂テーパリング即ち量的緩和縮小である。
これこそ2021年の市場最大トピックでもあった。
しかし、テーパリングといえど、FRBの緩和バイアスは変わらない。
2022年は、FRBが更に一歩踏み込み、いよいよ金融政策を緩和から引き締めへ方向転換する年となろう。
具体的には、利上げ、という本丸に向けて、まずFOMCで議論を深化させよう。
そのためには、テーパリングのプロセスを年央にも切り上げ、年後半には、利上げスケジュールについてFOMC内のコンセンサスを形成してゆく。
ここは、まとめ役としてのパウエル議長の腕の見せ所だ。
同氏は、これまでFOMC内のハト派とされたが、2022年はタカ派に転じる、或いは、タカ派の意見を、これまで以上に重要視することになりそうだ。
市場目線で気になるのは、果たして2022年中に利上げを開始するのか。
するなら1回か2回か。


コロナからの経済回復や生産ひっ迫状況の改善などを視野に、慎重に金融政策の舵を取らねばならない。
なにせ、コロナという、これまで体験したことがない異常な状況下からの出口を模索することになるので、パウエル氏も海図なき海域の航海を強いられる。
キャプテン・パウエルが、かじ取りを少しでも過てば、市場は一気に混乱に陥るリスクを孕む。
利上げ開始決定が早すぎれば、景気の腰を折る結果になる。
慌てて、利上げ計画を撤回すれば、パウエル氏の信頼性は地に落ちるだろう。
逆に、利上げが後手に廻れば、経済は過熱。
インフレ、あるいは最悪、スタグフレーション(物価上昇と経済減速の同時進行)というシナリオも無視できない。
早すぎもせず、遅きに失することもなく、難所の海路を乗り切れば、パウエル議長への信頼感は、これまで以上に強くなる。
「困ったときのパウエル頼み」「FRBには逆らうな」と、これまで市場では語られてきた。
それが「パウエル様、神様」と崇められるかもしれない。


市場も、そして政権も、勝手なものだ。
自分たちに都合良ければ奉り、敵役と見れば謗ることも厭わない。
2021年には、パウエル議長を「危険人物」とまで断じた政治家もいた。
民主党内急進左派の主導的立場にあるウォーレン上院議員だ。
まず、パウエル氏の金融システムに対する監視・制御が緩いと語気強く批判。
更に、FOMC参加者である地区連銀総裁たちの個人的株式投資を事実上認めてきた倫理規定に嚙みついた。
パウエル氏自身の個人的保有投資信託の売却事例まで問題視した。
パウエル議長再任問題に関しても、明確に反対の姿勢を明らかにした。
倫理規定に関しては、FOMC内での議論に直接関与する高官たちが、自ら株式投資に走るのはいかがなものか、という拒否反応がウォール街でも根強い。
その結果、ブレイナード現FRB理事などの名前が対抗馬として浮上している。
パウエル議長再任が「ホワイトハウスも認める当選」から「当確」に格下げされた感も漂う。
市場目線でも、緩和を主導する限り、FRB議長はマーケットフレンドリー(市場の味方)だが、ひとたび利上げを口走れば、瞬間的に敵役となる宿命にある。
2022年、市場の合言葉が「FRBには逆らうな」から「FRBを信じるな」になるのか否か。
後者なら、悪性インフレのヘッジとして金の出番が増えよう。
前者なら、ゴルディロックス(適温経済)の実現も現実味を帯びる。
インフレで熱すぎることもなく、デフレで冷えすぎることもなく、株式市場には願ったりのシナリオとなり、ヘッジ役としての金の存在感は弱まろう。