日本株だけではなく円も外国人投機筋主導の展開となり、2018年12月以来の113円台突破も原油高を材料に10月11日のNY市場で起きた。
そもそも国際通貨投機筋は、先月から、円安傾向加速現象に注目して、円売りポジションを積み上げていた。
9月の時点で既に115円水準を視野に入れていた。


参考記事(囲みで)
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFL301M30Q1A930C2000000/


新首相よりGPIFと円安が話題、NY市場の反応(9月30日付)


そして、今や、彼らは118円近くまでの円安オーバーシュートも想定している。
特にNY市場では「日本は原油輸入依存国」との認識から、原油買い・円売りトレードが目立つ。
所謂「国際通貨投機筋」主導の「悪い円安」相場だ。
彼らは、円に食指を動かす前には、もっぱらドルユーロの通貨ペアに照準を絞り、ドル円に換算すれば10円規模の動きを引き起こしていた。
例えば2020年にはドルユーロが1.08水準から1.22水準へ変動する過程で相場変動を増幅させた。
ドルユーロの通貨ペアといえば、欧米外為市場では、断トツの取引量である。それを動かすには、相当の売買エネルギーが必要だ。
その相場圧力が円に向けられれば、NY市場で円相場を動かすことは難しくはない。
そもそも外為動向の指標として通貨先物売買ポジションの推移がしばしば引用されるが、これは氷山の一角に過ぎない。
外為市場ではインターバンクの相対取引で巨額のマネーが動く。
この短期流動性の塊が円に向かえば、10円程度は充分に動かせる。
事実、今回の113円台突破に限らず、近年のドル円相場は、NY市場で大きく変動することが常態化している。
海外勢は、理屈よりモメンタム(市場の勢い)に乗り動くからだ。
対する日本勢は、緻密なマクロ経済分析に基づき、シナリオA,シナリオBと吟味を重ね、詳細なレポート形式で相場観を纏めることが得意だ。
それで円は買いか売りかと問えば、円売りの可能性が強いが、円高要因への目配りも必要、という模範解答になりがちだ。
チャート分析も米国人が驚くほど緻密である。
対して、欧米市場の通貨投機筋は、例えば、金利差と原油高で円売り、と日本人感覚で見れば、あまり深く考えず、後は行動あるのみ。
仕掛けも速いが、118円という目論見が非現実的となり、損切りとなれば逃げ足も速い。
その結果、ドル円相場もNY市場に先手を取られ、東京市場は後塵を拝する結果になりがちなのだ。
日本ではFX売買が人気だが、欧米プロ投機筋に束になってこられては、とても敵う規模ではない。


筆者は、そもそもスイス銀行外為・貴金属部ディーラー出身なのだが、本当に大きなポジションを持ち、相場を動かすプロは、決してメディアなどには出ず、ひたすら目立たぬように行動している。
みずからの相場観などをべらべら喋っても得るところは何も無いからだ。
マンハッタンの日本料理屋に日系ディーラーが集い、日本語で情報交換して、傷をなめ合う光景も幾度となく見てきた。
華僑、印僑ディーラーの逞しさに比し、和僑ディーラーはお行儀良く、おとなしい。
勿論、極めて優秀な和僑ディーラーも数々いるが、多くは、外資系に転職している。
例えに出すのも、おこがましいが、日本人ノーベル賞受賞者に海外大学籍の教授が多いことを考えると示唆的だ。
なお、欧米の通貨投機筋には独立系も多く、大手金融機関のようにハウスビュー(組織としての公式見解)に縛られないことも、臨機応変の対応を可能にしている。
ハーバード卒なのだが、富豪の父の遺産を引き継ぎ、NY郊外の一角で大型コンピューターにより重装備して、円などの通貨を大量売買している人物を訪ねたこともある。
特に日本経済について知見はないが、驚くほどの規模の売買を繰り返していた。
夏なのに、機材保護のため、内部はコートが必要なくらい冷房で寒かった。
かくしてウォール街離れの傾向も顕在化している。
日本について十分な知識のない外国人投機家たちが荒らす円相場は所詮ゼロサムゲームだ。
筆者は、中期的には110円程度に収れんすると見ている。