米国でもデルタ型急拡大で、国民の間に不安感が広がっている。
象徴的な出来事は、ワクチン接種で観光客が戻っていたハワイで医療崩壊危機。
遂に州知事が「ハワイに来ないで!」
そして、ワクチン接種遅れが目立つアラバマ州で、トランプ氏が「皆さん、ワクチン接種しましょうね」。
集会に集まったトランプファンには接種拒否派が多いので、トランプ氏がブーイングを浴びたという。
このデルタ型問題は金融政策にも影響を与える。
以下に、ジャクソンホールで議論されそうな事を纏めてみた。


FOMC金融政策決定会合の場合には、参加者に金融政策に関する公的発言を禁じるブラックアウト期間が2週間ほど定められている。
しかし、ジャクソンホール中央銀行フォーラムにブラックアウト期間は無い。
日本時間今夜に予定されている注目のパウエル議長講演(リモート形式)も、米国金融政策発表の場ではない。
市場が勝手にパウエル発言の行間を読みテーパリングについて何らかのヒントを求めているに過ぎない。

それゆえ、FOMC参加者も例年、この時期になるとメディアのインタビューで自由に持論を語る。
26日には、筋金入りタカ派3名がNY時間午前中に相次いで経済テレビに生出演した。


一番手は、ジャクソンホール会議のホスト役でもあるカンサスシティー地区連銀のエスター・ジョージ総裁。
金融政策変更の条件としてパウエル議長が掲げてきた「更なる著しい進展」が満たされたと判断する、と明言した。
二番手は、セントルイス連銀のジェームス・ブラード総裁。量的緩和の縮小プログラムを来年3月までに終わらせよ、と語った。
テーパリングは縮小といっても基本的には量的緩和は継続。緩和から引き締めへの本格転換はやはり「利上げ」。
この本丸の議論を3月以降にインフレ指標などを見つつじっくり議論する時間を残すことが賢明との見解だ。
これ以上、量的緩和を拡大しても、供給サイドの生産制約由来のインフレは制御できない。
それより、過剰流動性による資産価格バブルのリスクのほうが懸念される。これは、タカ派に共通した見解である。
リーマンショック後は、量的緩和の需要サイドへの刺激効果が効いた。
しかしコロナ危機では供給サイドの目詰まりが問題なので、量的緩和の効果は逓減する、との金融政策論も話題になりそうだ。
そして三番手が、ダラス連銀のロバート・カプラン総裁。
かねてから「テーパリングを9月FOMCで発表。10月には開始」を唱えてきた。
デルタ型が猛威を振るう今の状況になっても、その見解に変わりはないと明言した。
とはいえ、デルタ型の今後について見通せる医療専門家は世界で誰一人いないので、タカ派論者も、デルタ型の経済への影響については言葉を濁す場面が見られる。
結局のところ、金融政策もデルタ型次第。
パウエル議長は、これまで変異種の経済への影響は限定的との見解を語ってきた。
しかし、最新の米国マクロ経済指標は、PMIや消費者信頼感指数などでコロナ再燃による経済委縮を示す数字が並ぶ。
8月雇用統計も鈍化の予測が出始めている。
このような経済環境に鑑み、パウエル議長がジャクソンホール講演で、テーパリング時期の先延ばしを示唆すれば、これはサプライズとなろう。


なお、テーパリング決定の時期については、当初、「まだ先のこと、some time away」と表現していたのが、その後「数か月先、several months」に変わった。
今回「近い時期」のようなニュアンスの英語表現になれば、「秋9月10月にも決定か」と読むであろう。
対して、再び「数か月先」が使われれば、晩秋11月から12月にずれこむ、とも解釈されよう。
なお、市場はテーパリングを覚悟しているのだが、「量的緩和依存症」の症状が顕著なので、禁断症状のごとき不安心理は根強く残りそうだ。
これまでは経済に異変が生じ株価が暴落すれば、FRB議長が追加緩和などの助け舟を出してくれた。
しかし、今後は「パウエル・プット」も期待できないとなると、変異種に対する不安が身に染みてくる。
これまでは、株式市場で悪いニュースも政策期待で相場には良いニュースと扱われたが、これからは悪いニュースは悪いニュースと受け止めねばなるまい。
いわゆる「いいとこ取り相場」はもはや期待できない。


金市場は、悪いニュースで買われる。
総じて、一般論としては、株価は楽観論で育ち、金価格と債券価格は、悲観論で育つと言われる。


最後に、昨晩はアフガニスタンのカブールでISIS分派によるテロ勃発。久しぶりに有事の金買い。
1,780ドルから1,797ドルまで上昇。といっても一過性。
市場の注目は、地政学的リスクより、先般ここでも書いたが、バイデン政権の支持率が更に低下しそうなこと。
既にアフガン対応策に関して賛成は僅か25%だ。
この政局混迷は、3.5兆ドル規模の大型インフラ投資案の議会通過を妨げる。
ここがアフガン問題に関する市場の視点だ。
それにしても、米国と過激派タリバンが外国人アフガン脱出に関して協調しているところに、最過激派ISIS系が楔を打ち込んだ。
バイデンはリベンジを表明。かなり危うい。