2021年夏相場で最も重要なマーケットイベントとされてきたジャクソンホール会議がいよいよ今週末にかけて開催される。
例年、ワイオミング州の避暑地ジャクソンホールに世界の中央銀行幹部が集い、リゾートの雰囲気のなかで普段着で語り合う場である。
しかし、今年はデルタ型猛威により、急遽リモート形式となった。
週に数回FRBに出勤するパウエル議長は、執務室か自宅からリモート講演することになろう。


市場の注目点は、やはりテーパリング(量的緩和縮小)。
既に7月FOMC議事録で「殆どの参加者が」テーパリングに関しては実質合意していたことが確認された。
しかし、具体的なテーパリング決定と開始の時期に関しては、FOMC内でも意見が割れている。
デルタ型の経済への影響、具体的な実施期間と毎月の縮小額などが未だ流動的である。
更に「量的緩和・ゼロ金利政策がコロナ関連の失業減・物価安定に有効か」との命題に関する意見も交換されよう。
市場の最大注目点である「インフレは一時的か否か」に直接的に関わる議論で、FOMC内部でも意見が割れている。
パウエル議長はこれまで「現在の物価上昇は一時的」との主張を貫いてきた。
もし、ジャクソンホール講演で、この見解を変えることがあれば、市場にはサプライズとなろう。


雇用問題も重要だ。
量的緩和を継続しても労働参加率をコロナ前の水準に戻すことは難しい。
コロナ感染を警戒して就職を控える人たちや、学校再開が不透明な状況で子育てのため働けない女性の問題を金利や量的緩和で解決することは出来ない。
そもそも、量的緩和政策は、マクロ経済の需要サイドには効くが、供給サイドには効かない。
半導体不足とか、サプライチェーン破断などの「生産制約」由来の価格上昇を金融政策で抑え込むことは無理筋だ。
ジャクソンホールでのパウエル講演に関しては、テーパリングの決定・開始時期が、年内9月か10月か11月か12月か、市場が深読みすることになろう。


金市場の視点では、テーパリングにより、教科書通りドル金利が上昇するのか下落するのか、ここが勘所となる。
これまではテーパリングの議論が進んでも、ドル金利は10年もので1.7%から1.2%まで下落した。
インフレヘッジとしての金が買われるような経済環境についての吟味が関心事となる。期待インフレ率の動きが重要だ。
そして、名目金利と期待インフレで決まる実質金利が、金価格の中期的動向には強く影響する。
基本的に実質金利がマイナスの状況は変わらないだろうが、マイナス幅が縮小すると実質金利は上昇したことになるので、金価格には逆風となろう。
更に、テーパリングを市場が織り込んでも、次に問題となる「利上げ」(名目短期ドル政策金利の引き上げ)の時期についての議論に関して、金利を生まない金の市場は、重視せざえるを得ない。
2023年か、あるいは、前倒しで2022年か。
総じて、実質金利がマイナス状況は続くので、中長期的に金価格は強気に見ている。
しかし、短期的には、名目ドル金利上昇が外為市場ではドル高となりがちなので、金には逆風が吹きそうだ。
名目金利と実質金利の話は、極めてややこしいので分かりにくいが、避けては通れない問題である。
債券市場に馴染みは薄いと思うが、普段から、少しずつでも、目を向ける習性を養ってほしい。


なお、ワイルドカードとして、デルタ株要因も見逃せない。
デルタ型の猛威が更に悪化すれば、マクロ経済も委縮して、テーパリングどころではなくなる。
既に本欄でも書いたように、最新の米国経済統計はPMI、小売り統計、消費者信頼感指数などで悪化が顕在化している。
ややタカ派寄りに見られているパウエル議長が、経済に悲観的となり、本来のハト派に戻るサプライズもあり得る。
テーパリングは来年に持ち越し、などのシナリオだ。
これは、金には短期的に反騰要因となる。
パウエル議長のこれまでの発言を見ても、常に「デルタ株次第」の但し書きがつく。発言にヘッジをかけているのだ。


日本でもデルタ型の地方への拡散ペースが凄いね。
県境をまたいで持ち込まれたウイルスが、県内の飲食機会・職場・学校を通じて、ばら撒かれている。
県境をまたぐ東北新幹線など今やガラガラだが、県内で、特にお盆には、かなり人流が増えていた。
ちょっとだけなら、県内人の親族・友人が集まるのも、いいだろう、との思いを多くの人が持っていた感がある。
誰もいない田んぼでもマスクしているお爺ちゃんが、孫に会うと、マスクを忘れて、触れ合ったりする。
その結果、親族で感染者でも出そうものなら、一夜にして、村八分状態になる。
強い相互監視社会だが、家族内では意外にガードが甘い。
これから秋には選挙がある。地方では「感染対策をした」とされる集会が増えることは間違いない。
政治空白期も生じる。医療崩壊は覚悟せねばなるまい。