毎年、この季節になると、経済メディアではニクソンショックが懐古される。
米ドルと金の交換停止をニクソン大統領が突然発表してから、はや50年。
金の裏付けのない米ドルは、紆余曲折があったが、結局、国際基軸通貨としての地位を保っている。
米ドル覇権と言われるが、米ドル以外には、国際基軸通貨となりうる通貨はない。
世界の貿易決済も、米ドル抜きでは、成り立たない。
米国がどれだけ赤字をかかえようと、市場は、ドルを「安全通貨」と見なし、「米国債」を安全資産としている。
金はドルの価値の裏付けであったが、金本位制は過去の遺物だ。
但し、全く価値の裏付けのない米ドルは、ただの紙切れに過ぎないとの危惧も根強く、せめて世界の中央銀行は、金を外貨準備の一環として買い増してきた。
今後の通貨制度は、デジタル通貨を志向している。
まだ実験段階だが、通貨の交換手段としては、デジタル通貨は、極めて有望である。
しかし、価値の保存手段としては、歴史が浅く、未だ未知の世界にある。
対して金の価値保存機能は歴史も長く、確立された実績を持つ。
デジタル通貨 対 金 という対立の構図ではなく、それぞれの機能に特化して共存する世界になってゆくと感じている。
なお、国際基軸通貨に関しては、ノーベル経済学者マンデル氏が提唱した「最適通貨圏構想」が、最も現実的な選択肢だと思う。
世界共通の通貨など、分断された世界の中で、望むべくもない。
欧州はユーロ、米大陸は米ドル、アジアは人民元か円か、そして中東は「金」。
そもそもユーロは最適通貨圏構想を理論的支柱として生まれた地域統一通貨だ。
マンデル教授もその功績でノーベル賞を受賞した。日本にとっての問題は、アジアの地域統一通貨構想だ。
長期的には人民元に軍配が上がりそうだが、それでは、米国が黙っていまい。
かといって、円がアジアの地域統一通貨とは許容されないであろう。
アジアも米ドル通貨圏という状況が未だ続きそうだ。
民間の国際金融の世界では、「日本を除くアジア」と「日本」が分離され扱われる傾向がある。
日本が独自の経済圏を構築する時代が来るとも思えないが、日本円の地位は、将来的にどのような道を辿るのか興味深いところだ。