今年の米国夏相場には異変が起こっている。通常、8月に市場関係者の多くが夏季休暇に入り、商い薄のなか、値だけ飛ばす状況になるのだが、今年は、それが7月に来た。
ダウ平均35,000ドル超え、史上最高値更新など見出しだけは派手だが、その実態は、ワクチン接種進展で、待ちかねた久しぶりの家族旅行などに多くのトレーダーたちも早めの夏季休暇を取ったからだ。
 米国消費者物価上昇率の要因の一つとして国内航空運賃急騰が必ず挙げられるが、ウォール街でも、マクロ経済指標というより、自らの旅行プランを作成したときのサプライズとして話題になっている。


7月に相場を動かしたのは、CTA(コモディティ・トレーディング・アドバイザー)など例年8月に売買薄いなか相場を荒らす短期投機筋だ。
オーソドックスな運用の担当者レベルでは、ZOOM会議でも、リゾートからの参加が目立った。
今月19日にダウが一日で700ドル以上急落した日も、騒ぐのはメディアばかりで、多くの市場参加者の反応は冷ややかであった。
翌日に下げ幅の殆どを回復したときも、特に驚きはなかった。
インフレ懸念のなかで、ドル長期金利が1.2%台まで下落したことも、債券市場を一時は席捲した米国債売りトレードの巻き返しというポジション調整への反動が主体で、そこに無理な意味づけは不要との本音がしきりに聞こえてくる。
かくして、現場では、もっぱら傍観姿勢が目立った。
その代わり、7月末のFOMCから8月ジャクソンホールまで、8月相場の注目度は高い。8月は夏季休暇取らず、通常勤務態勢の事例も多く、例年とは明らかに異なる。
市場が今、一番知りたいことは、「インフレが一時的か否か」に尽きる。パウエル氏は「一時的」との主張を頑として譲らない。
その判断を信じる人たちと、疑う人たちで市場内の見解も真っ二つに割れる。
株価が上がれば、「一時的で政策変更は遠い」とのパウエル見解が勢いを得る。
株価が下がれば「一時的ではなく、経済過熱に対してFRBは後手に廻る」との解釈が説得力を「一時的に」強めるが、決定打には欠ける。
ここが読めないと、今週がピークの企業決算におけるガイダンスの評価も難しい。
このような市場環境のなかで、今週27-28日に、いよいよ7月FOMCが開催される。
8月ジャクソンホール中央銀行フォーラムも含め、この2回のビッグイベントで、まずテーパリング開始についての議論が深化。
緩和縮小の時期及び量について、具体的な「合図」が示される可能性がある。


そのうえで9月FOMCで決定され、最短で年内にも開始と、市場の読みも前倒し傾向だ。
パウエル議長も、米国内インフレ指標の上昇幅は想定を上回ると認めている。
そこで市場は、パウエル氏以外のFOMC参加者の講演などに注目して、FRB内部の空気を読み取ろうとしてきた。
今週のFOMCでは、タカ派寄りの参加者が増えそうだ。
このような流れを追認するようなFOMC声明文及びパウエル議長記者会見での言い回しがあれば「行間を読む」市場は反応するだろう。
 最近のパウエル語録で注目されている単語は3つある。


 「忍耐強くpatient」経済動向を見守る姿勢。
 「活発にactive」緩和縮小が議論される現在の流れ。
 「いくつかのseveral」会合でテーパリングが議論された事実。


このような形容詞・副詞が別の単語で表現されると、FEDウォッチャーも英文解釈講座の如く、その意味に変化を模索することになる。
 「シソーラス(類義語辞書)が手放せない」。
FOMC前になるとアナリストたちから聞こえてくる呟きだ。
なお、来年、パウエル議長が再任されるか否かも最近ウォール街でホットに議論される。
 総じて、再任と見られるが、イエレン氏に次ぐ女性FRB議長としてブレイナード理事の昇格説も一部では囁かれる。
今回のパウエル記者会見でも質問が飛ぶかもしれない。


なお、デルタ型変異種についての不透明性も、8月の市場変動要因として認識されている。
 「7月中に夏季休暇をとっておこう。8月以降はどうなるか全く予見不能だ」との市場関係者の呟きが印象的であった。
 先週、米CNBCにファウチ氏が生出演したとき、女性キャスターから
「二児の母でワクチン2回接種した。 子供たちのことを考えると、対面業務も仕事柄多いので、家庭内マスク着用すべきか」と聞かれ、非常に慎重に言葉を選びつつ、日本語に意訳するなら、石橋を叩いて渡るなら、そう勧める、と答えていた。
バイデン政権が、ファイザー社などに、変異種対応と子供用ワクチンが開発されれば、2億回分追加購入できるという「ノックアウト型オプション取引」の如き条件付き購入権利確保・ヘッジに動いたことを、市場は複雑な思いで見守っている。


26日のNY市場ではドル長期実質金利(10年)が過去最低のマイナス1.12%にまで低下した。
夏休みモードの市場に大きな反応は見られないが、これは中期的に金価格には強い追い風となる。
投資家が国債を持っていても、利回りより物価上昇が上回るので、結局資産価値が目減りしてしまうからだ。
ジワリ効く要因である。筆者は重視する。


さて、ゴールドメダルラッシュは連日続いている。国民的高揚感もボルテージ急上昇だ。
金の威力と本欄でも注視してきたが、その陰で、五輪どころではない医療崩壊の現場がある。金メダルより人の命。
当たり前のことだが、忘れるべきではなかろう。特に今回は50歳以下の現役世代を直撃している。
五輪後、我々は、この厳しい現実と向き合わねばならない。
金の威力でもコロナは消えない。