「謎の金利安」に市場動揺、株も金も大幅安

イエレン財務長官は、ロンドンで開催された主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会合後、メディアに「10年ほどは、あまりに低すぎるインフレ、あまりにも低すぎる金利と戦ってきた」「(正常な金利環境に)戻ることが望まれる」「それは決して悪いことではなく、むしろ良いことだ」と語った。
金利高を正当化・容認する発言として市場では注目され、来るべきテーパリングにも腹を括り覚悟していた。
ところが、FOMCの利上げ検討・タカ派姿勢が鮮明になった今、ドル長期金利は1.4%台に下落している。
想定外の展開に市場は動揺している。
イエレン氏の説に従えば、「今後もあまりに低すぎるインフレ、あまりにも低すぎる金利と戦う」ことになるのか。
「望まれる正常な金利環境には戻れない」のか。
金利安は「決して良いことではなく、むしろ悪いこと」なのか。
今週は、パウエルFRB議長始め多くのFOMC参加者が公的な場で発言するが、イエレン前FRB議長・現財務長官のご託宣も聞いてみたいものだ。
「謎のドル金利安」を如何に説明するのか。


更に、米国市場の期待インフレを示す指標である10年ブレークイーブンインフレ率(BEI)が、6月15-16日開催されたFOMC後に急落していることも不気味だ。

 

ブレークイーブンインフレ率(BEI)

昨年末の1.99から、5月には2.54まで上昇していたが、今や反落傾向が顕著だ。
FRBはFOMC終了後に発表した経済レポートで2021年のインフレ率予測を前回発表の2.4%から3.4%に引き上げた。
しかし、2022年は2.1%に落ち着くと見ている。
パウエルFRB議長は「年後半のインフレ傾向は一時的」と、繰り返し述べているが、市場も、FRBがインフレは抑え込むとの見方に傾いているとも読める。
市場で人気が高かったインフレ・トレードも巻き返され、商品市場は全面安の展開である。


なお、18日のニューヨーク市場では、セントルイス連銀のブラード総裁のタカ派的発言が注目された。
しかし、冷静に見れば、同氏以外にもFOMC参加者には22年利上げ予測者が6人いる。
更に、23年に2回の利上げを予測している参加者は計13人にのぼる。
ちなみに、同氏は、今年、FOMCでの投票権を持たない。
たまたま、同氏発言が、18日現地市場寄り付き前の時刻に生出演のかたちで流れたので、投機筋に格好の材料扱いされた感が強い。
ドル金利安といっても、どこまでが市場の実勢を映すのか、今しばらく、冷静な見極めが必要であろう。


なお先週土曜日の日経朝刊「グローバル市場面」で筆者のコメントが「16日の米連邦公開市場委員会(FOMC)が想定以上にタカ派的だったことが金の狼狽(ろうばい)売りを招いた」と掲載されている。
新聞記事は文字数が限られているので、活字にならなかった筆者の発言は「金に三つの売り材料。金利を生まない金に利上げは天敵。そしてドル高。更にインフレ期待盛り上がらず」というもの。
下げの速度が速かったので、短期的に相場が崩れた。
未だ要経過観察の段階だが、1,600-1,700程度の水準は視野に入る。
中長期的には2,000ドルの見方に変わりはないが、タイミングがやや後ろにずれこむ可能性を見極めているところだ。