パウエル議長、金融市場のサイバーリスクはリーマン級
米国最大の石油パイプラインがサイバー攻撃で停止して、米国のガソリン先物価格が急騰している。
このサイバーリスクはFRBも注視せざるを得ない。
4月11日、パウエル議長が、米国地上波三大ネットワークCBSの「60ミニッツ」という時の人を招く1時間番組に生出演したとき、サイバーリスクについて詳細に言及している。
番組中、アルケゴス問題について聞かれたときに、「金融システムは堅固になったが、今後の最大の問題はサイバーリスクだ」と突然話題を変えたのだ。
「従来型金融危機の可能性は今や非常に低い。
しかし、リスクは変異する。
我々が最も注視しているのは、今やサイバーリスクだ。
世界金融危機再来よりサイバーイベントを懸念する。
具体的シナリオとしては、支払いシステムへの障害がある。
支払いが実行されたか、大手金融機関が追跡できないケースが生じれば、金融システムは停止してしまう。
今や、毎日、大手金融機関がサイバー攻撃を受けている。
関連機関と対処しているが、これで十分で安全との感触を全く得られていない。」
ちなみに5月6日に発表されたFRBの金融安定報告書(2021年版)でも、「関係者が見る今後12-18か月の潜在的金融システムショック」のなかで「サイバー攻撃」が20%強で7位に挙げられている。(複数回答)。
2020年の同レポートでは10%以下で最下位であった。
なお、最新版に挙げられたリスクの上位3位は、ワクチンが効かない変異種、実質金利急騰、そしてインフレ高進である。
サイバーリスクについて、市場の注目は、まず、バイデン政権の対応だ。
これまではFBIがランサムウエア(身代金)は払わないように指導してきた。
安易な身代金支払いは、犯罪を増長させるとの判断に基づく。
しかしバイデン大統領は、これまで当該企業の判断に任せるとの姿勢である。
当該企業のバックアップ・データ保管体制が不十分、或いは、データ復元が困難だと、身代金要求に応じざるを得ないケースもある。
更に、身代金を支払わねば、内部情報を公開すると脅す事例も少なくない。
バイデン大統領も演説で早速サイバーリスクに言及したが、具体的対応には言及しなかった。
近日中に具体的指針が発表されるようだ。
パウエル議長の発言も「FRBがサイバーリスクに手こずっている」との印象を与えたので、マーケットも警戒的になる。
実質金利やインフレなどの問題ばかりに注目している間に、サイバー攻撃により「間隙を突かれる」事態が懸念される。
エネルギー部門で米国最大の石油パイプラインが標的とされたことで、その現実味が高まったと言えよう。
なお、サイバー攻撃の身代金授受に暗号資産が使われる可能性も高く、特に、暗号資産交換所には本人確認の徹底などが一段と厳しく求められよう。
一昔前なら、「金」が匿名資産で支払いに使われたものだが、今や、暗号資産に移っている。
さて、米国では、次々にコロナ関連禁止措置の緩和が進んでいるが、日本は、措置の厳格化が必要とされ、その是非が政治問題化している。
ワクチン接種が進んだ国と、遅れる国の差が市場での鮮明だ。
今や、円が、その理由で売られがちだ。グローバルな視点でも、「双子の赤字」をかかえる米ドルと、五輪を控え非常事態が続く円が「売られる通貨」となり、ユーロや人民元が「買われる通貨」となっている。
米ドルと円は「安全通貨」の座を争ったものだが、今や、安値比べの様相だ。これほどに各国通貨の評価が激変すると、発行国の無い無国籍通貨=金の安定性が浮上することになろう。
個人的には、今回のコロナ対応で、日本が有事に対して、如何に無防備であったかが露呈されたと感じている。
五輪に関しても、結局、中止するにしても誰が決めるのか、どうすれば良いのか、誰も分からないという「怖い」状況のなかで、とりあえず準備が進行しているわけだ。