日米「経済」安全保障、日本側は米国債購入で貢献

今回の日米共同宣言で、日米安全保障体制維持のために、日本側は「台湾海峡明示」を受け入れた。
中国が最大の輸出先である日本の立場では、高いコストを支払ったといえる。
既に、株式市場では、対中懸念の売りも出始めている。
そこで、筆者が不満に感じることがある。
それは日米「経済」安全保障体制維持のために日本は米国債大量購入・保有で貢献していることに対して、米国側から謝意が示されなかったことだ。
今や、日本は世界最大の米国債保有国だ。その総額は1.2兆ドルを超す。
FRBが量的緩和政策で購入した米国債は2兆ドル程度。保有世界二位の中国は1兆ドル超。
FRBは、今後、テーパリング(量的緩和縮小)となれば、満期になった米国債は再購入することなく、自然減で減らしてゆくであろう。
中国は、米国債売却の可能性をちらつかせ、米中交渉材料として使うかもしれない。
その点、日本側の米国債購入者は生保などの機関投資家やGPIFなどだ。
為替ヘッジコストの変動や決算期対策で一時的に米国債減らしに動くこともあるが、総じて長期保有の「優良顧客」といえよう。


そこで思い出されるのが、1997年6月、当時の橋本首相が「米国債売りたい誘惑」発言を受け、米国の債券市場が一瞬だが動揺したことだ。
この一件以来、歴代の首相が米国債に言及することは封印されたように見える。
とはいえ、今年2月から3月にかけては、日本勢の期末大量米国債売却が米10年債利回りの上昇要因となった。
そもそも、今回のドル長期金利急騰の過程で日本の売りを要因にあげる欧米債券アナリストは少なくない。
今後のドル金利予測においても、例えば、フィナンシャルタイムズは19日の記事で「今後数週間の日本の投資家の動きが、決定的要因となると思われる。
「東京からのビッド(買い)」はクリティカル(今後を決める重大なポイント)ゆえ、注視している」との複数コメントを引用している。


直近で、好調が続く米国経済指標にも関わらず、ドル長期金利が下落して、小康状態にあるのも、新会計年度に入り、日本勢が米国債再購入に動いたことを要因に挙げる欧米債券アナリストは少なくない。
この件についての詳細は、
本欄4月16日付「謎のドル金利低下、日本セイホ米国債買いも」を参照されたい。
更にいえば、GPIFや生保が運用する資金は、日本国民が保険・年金のために払い続けたカネである。
結果的には、バイデン大統領の繰り出す兆ドル単位の大型財政政策の一部を、日本国民が支える構図ともなっている。
それだけに、米国側から謝意の一言が聞きたかったのだ。


米国では、マスターズで優勝した松山選手のキャディーが終了後、帽子をとってグリーンにお辞儀で一礼したことがネットで大きな話題となり「慎み深く礼儀正しい日本人」の名を上げた。
しかし、外交交渉は「慎み深さ」だけでは通じない。
言うべきことは、きっちり且つ簡潔に且つさりげなく触れることが、スマートな外交と言えよう。
なお、ドル金利動向に振り回されている国際金価格も、結局は日本勢の米国債購入が、かくして重要な下支え要因になっていることは、知られていない。
日本勢の米国債買い出動→米ドル金利低下→国際金価格上げ、という因果関係なのだ。