パウエル氏、バブルは覚悟、日本化だけは回避意向、金は急騰

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ワクチン接種は進み、政府は兆ドル単位の財政大盤振る舞いのなかで開催された3月FOMC。同時に発表されたFRB経済予測のレンジ上限を見ると、2021年後半の米国経済成長率は年率7.3%にまで急上昇。失業率は4.0%にまで低下。インフレ率は2.6%に急伸。レンジも切り上がっている。インフレリスク顕在化は必至の様相だ。ウオール街でも「歴史的予測上方修正だ」と驚きの声が溢れた。


前回のFRB経済予測発表時は、2020年12月。米国内コロナ情勢は最悪期。ワクチン接種・効果も未知数であった。それから3か月。今回は、事態が劇的に転換中だ。


パウエルFRB議長も、インフレの可能性を認めたが「一時的で、その後は反転する」と冷ややかに語った。


放置すればバブルになりかねないほどの予測数値だが、「上振れなら、抑え込む金融政策手段はある」と断言する。恐れるのは変異種の猛威やリバウンドによる下振れリスクだ。カンフル剤となる金融政策手段は極めて限定的である。


そこで、金融政策変更も、後手に廻るリスクより、先走りリスクを嫌う。その結果、一定のバブルは放置を覚悟するが、引き締め過ぎて長期停滞という「日本化」だけは回避する姿勢だ。1時間に亘る記者会見で「ジャパンのように」という表現が、この文脈で一回だけ使われた。


市場注目のテーパリングについては、パウエル氏は依然、雇用と物価の持続的目標達成が確実視されるまで緩和継続の構えだ。とはいえ、「合図」はあった。FOMC参加者の金利予測を表すドット・チャートで、2022年利上げ派が前回1人から4人に、2023年については利上げ派(含む複数回)が5人から7人に増えていた。市場の事前予測に合致する結果だ。
マーケットは、2013年のバーナンキ・ショックのごとき「闇討ち」ではなく、秩序と透明性があるテーパリングならば、安堵する。寧ろ緩和縮小もせず、インフレが悪化して進行するシナリオのほうがリスク視される。


なお、FOMC内で、ハト派とタカ派亀裂の兆しも明らかになった。記者会見でも、早速この点を突かれたパウエル氏だが、「健全な議論があって当然」とかわしていた。市場はタカ派の「魔女探し」と、その発言、更に同派勢力拡大の有無をフォローすることになろう。


急騰する長期金利に関する質問も飛んだ。


このときだけ、パウエル氏は原稿を読んだ。市場が最も神経質になっている部分だけに、教科書的回答で明言を避けた。長期金利は主として市場が決めるもの。FRB側に抑え込む決定打は見当たらない。民間銀行の米国債保有上限規制を緩和する手段が有力視されたが、ここだけは、「後日回答する」と先送りした。今後、要経過観察案件だ。


結局、長期金利急騰については、今後も上昇余地を残す。


今後の市場の反応だが、総じて「慎重な楽観論」が支配的だ。


注目の米10年債利回りはFOMC前に1.7%視野の水準まで上昇していたが、1.6%台で反落して取引を終えた。


ダウは初の3万3千ドル台。ナスダックは、FOMC直前のマイナス圏からプラス圏に浮上した。外為市場ではドル安が進行。ビットコインと金価格は上昇。金は、大きなイベント通過で吹っ切れた感じ。底値圏で大きく下落するリスクから解放され、値固めに入る。


結局はFRBもコロナ次第。パウエル氏も「マスク外し、密な人的接触が増える」場合のリスクにも言及して、金融超緩和継続の必要性を訴えていた。


それにしても、今回のパウエル氏は、最初から緊張気味で、声明文を読み上げるときから、口が乾いたような所作を繰り返していた。一言、形容詞や副詞の使い方次第で、発言のニュアンスが大きく変わる。一つの単語でも、そこだけが報道され市場を独り歩きする可能性がある。その緊張感の中で、失言もなく、そつなく切り上げ、乗り切ったという印象であった。