金、1800ドル割れ

貴金属が売られた。金は1800ドル大台割れ。昨日本欄でも触れたが想定内の下値模索中。
直接的理由は、ドル金利急騰。金利を生まない金には逆風。ドル高傾向にもなる。とはいえ、インフレという金の出番も想定される状況だ。以下、少々専門的になるが、金利を巡る最新事情をまとめた。

米国ドル長期金利の指標として注目される米国10年債利回りが1.3%を突破した。1月に1%台を通過後、2月に入り上げが加速中だ。
歴史的には依然、超低金利水準ゆえ、この程度の金利上昇でも見逃がせない市場変動要因となる。
今後、市場への影響については、押さえておくべき二つのポイントがある。
まず、名目金利が上昇中だが、同時に、インフレ期待も上がってきたこと。代表的指数としてBEI(ブレークイーブン・インフレ率)を見ると、1月に年率2%の大台を突破後、2月に入り直近で2.24%にまで上昇してきた。その結果、実質利回りはマイナス1%の水準で推移している。従って、名目金利上昇→金売りという現象は短絡的だ。(BEIグラフを再び載せておく)
次に、ドル長短金利差が拡大中という点も重要だ。昨年は米国10年債と2年債の利回り格差が逆転するという逆イールド現象が発生。歴史的に見ると、不況の前兆と見られるだけに、市場には不安感を与えた。安全資産の金には追い風となった。それが、一転、今年は、順イールドに戻り、金利差も拡大中だ。
2年債利回りが直近で0.12%近傍にあるので、長短金利スプレッドは1.3%以上プラスに達する。イールドカーブ(利回り曲線)は昨年の平坦化から右肩下がり傾向とは打って変わり、今年は急勾配の右肩上がり傾向(スティープ化)が顕著だ。短期金利はFRBが政策金利をゼロ金利に抑え込む姿勢を堅持しているが、長期金利は市場が決めるゆえ生じた転換現象と言える。これは、金には逆風といえる。
では、ドル金利急騰の今後の展開は?
ドル金利水準も「臨界点」を超えると、健全なインフレ期待を映す「良い金利高」から、インフレ懸念による「悪い金利高」と化すリ。現状では概ね10年長期金利1.5%前後が、その「臨界点」と見られる。この水準を超すと、財政赤字膨張・国債増発が不安視される可能性がある。リーマンショック時には、この要因が米国債格下げにまで発展して、当時史上初の国際金価格4桁入りへ急騰が生じた。
但し、リーマンショック後の体験として、今や経済構造が低インフレ体質になっているので、「高圧財政」でも物価は上がらないという傾向が指摘されてきた。欧米市場では「日本化現象」(ジャパニフィケーション)と呼ばれる。
この考え方は依然根強いが、さすがにバイデン民主党政権が、経済回復期待が高まるなかでも追加的に1.9兆ドル規模の財政投入を強行するとなると、市場には「経済過熱懸念」も芽生えてきた。
それでも、量的緩和縮小(テーパリング)懸念を強く否定する。16日にはセントルイス連銀のブラード総裁が経済テレビに生出演。「テーパリング?考えることを考えたこともない」と一蹴して見せた。ところが市場心理とは複雑なもので、強く否定されると、却って、深読みに走りがちだ。パウエルFRB議長も、当面、言動にはよほど注意せねばなるまい。特に株式市場で米国株価指数最高値更新が続くと、市場内には株価「緩和依存症」への反省機運も出始める。
この問題の勘所は「雇用」であろう。1月雇用統計で最も懸念されたところが労働参加率低下であった。求職活動を諦めた長期失業者が増加傾向にある。「見せかけの失業率」は低下する。この雇用問題に解決の目途がたたぬ限りは、FRBの緩和姿勢に変化はあるまい。
但し、急騰する10年債利回りは、さすがのFRBも臨界点内に抑え込めない。米国債市場は飛び抜けた流動性規模ゆえ、特に10年債のイールド・カーブ・コントロールは現実的に難しい。
ドル長期金利急騰現象は、移ろいがちな市場心理を映すので、「取り扱い注意」の要因である。金には潜在的に買い要因となる可能性がある。

さて、いよいよ日本でもワクチン接種開始。
私はワクチン接種に対する抵抗感が全く無いけれど、やはり超スピードでのワクチン開発・認可ゆえ、違和感を持つ人も少なくない。日本は国際的ワクチン獲得競争も完全に周回遅れで、米国がバイデン大統領の強い要請で、どんどん先取りしてゆく。とはいえ、結果的には、その接種結果を見ての日本での本格接種となれば、「残り物に福」ではないが、結果オーライになるかも。いずれにせよ、日本での接種普及は想定より遅れそう。コロナ第三波は徐々に収まる方向だが、悪くすると、第四波がオリンピック期間と重なる展開も想定せねばなるまい。

利回り
拡大
グラフ出典「セントルイス連銀」