テスラ社、金地金・金ETFに運用拡大方針発表

インフレ予想グラフ

金、プラチナ、銀、いずれも急反発。(金価格は添付KITCOグラフの緑線が最新24時間の動き)。
昨晩はテスラ社が、運用方針を拡大して、ビットコイン購入を明示して話題となったが、同時に、「金地金、金ETF」も買いの対象とすると発表した。
更に、インフレ期待が高まるという状況もインフレヘッジとしての金買い増加を示唆するので重要だ。
では、以下に詳細説明。

5日に発表された雇用統計の内容は就職活動を諦めた長期失業者が増加傾向という懸念すべき内容であった。そこで、間髪入れず待ったましたとばかりにバイデン大統領が緊急講演を行った。「雇用状況はかくも厳しい。(共和党が1/3への減額を主張している)民主党案の1.9兆ドル規模の追加救済経済政策を今こそ実行せねばならない」。財政赤字を心配するより、まずは追加財政出動で雇用救済回復が重要だ、と国民に訴えた。今日がなければ明日はない、との感覚が満ちる講演であった。
こうなると、共和党も強くは反対できない雰囲気が醸成される。
そこにイエレン財務長官が生テレビ出演で、共和党牽制の追い打ちをかけた。「財政は大胆に」。Act Big!がイエレン財務長官のスローガンになっている。「今、動かねば、失業率の本格回復は2025年までずれ込む。今、動けば、2022年回復も可能だ。」2022年か、2025年か、共和党に決断を迫る最終通告の如き迫力が伝わる。
これでも共和党が妥協せねば、「最後の切り札発動もやむを得ぬ」との牽制の意図も透ける。
「最後の切り札」とはリコンシリエーション(財政調整法)。この単語も足元の米国政治情勢を読むにあたり必須の用語だ。51対50(副大統領が決定票を持つ)という超僅差過半数の上院で、民主党の単独強行採決を可能にする特別措置である。
バイデン大統領は、出来る限り、超党派での合意を目指す姿勢を貫いてきた。しかし、政権発足後100日間の「ハネムーン期間」に、コロナ対策の効果が発揮されねば、いきなり出足から躓く結果となりかねない。それこそ、共和党、特にトランプ前大統領がほくそえむ展開となろう。ここは、バイデン新大統領にとって正念場だ。
市場も週末に敏感に政治の流れを肌で感じ取っていた。
週明け、東京株式市場「30年6か月ぶりの高値更新」との報道がウオール街でも話題になった。
さっそくモルガン・スタンレーからは「株価調整終了」とのレポートが流れる。クレディ・スイスは「間断なき株価上昇シナリオ」を発表。
ここまで強気説が支配的になると、当然、「バブル末期」説も勢いづく。特に、テスラ社がビットコインにまで運用拡大方針を開示したことが、市場の警戒心を強める要因となった。
交流サイト系個人連合の反乱の真っただ中に、マスク社長が空売り締め上げ攻勢を支持するかのごとき投稿で、火に油を注ぐ結果となったことも記憶に新しい。
今や、トランプ・ツイートに代わり、マスク・ツイートが市場を動かす。暗号資産に関しても、理解を示す姿勢であったが、うっかり「買い」と投稿すれば、その一言が急騰を誘発するは必至だ。マスク氏は、テスラ株非公開騒動などに際してもツイッターでの発言が問題視され、SEC(米国証券取引委員会)からイエローカードのごとき警告を受けていた。そこで、今回は、まず社として運用方針拡大の情報開示に踏み切ったようだ。
かくして、レディット銘柄の株価波乱、ビットコイン相場急騰と投機的資産価格変動が相次ぎ、市場の「バブル感」も高まっているわけだ。
冷静に分析すれば、注目すべきは、ブレークイーブン・インフレ率が2.21まで上昇して、インフレ期待が高まってきたことだ。(添付グラフ参照)。政策金利はFRBが決めるが、インフレ期待は市場のセンチメントが決める。イールドカーブも一時は平坦から逆イールドになり、「不況の前兆」と気味悪がられたものだ。しかし今や、米国長短金利差は右上がり(順イールド)で拡大の一途。見違えるような急勾配になり、イエレン財務長官の「高圧財政論」によるインフレ期待の高まりを映す現象と見られている。しかも、パウエルFRB議長は「インフレ・オーバーシュート容認」の姿勢を変えていない。
「雇用なき株高」という実体経済から遊離した現象でも、市場環境は「株高のモメンタム」継続を明示している。
「せっかくのパーティーゆえ、お相伴にあずかり参加させてもらうが、会場の出口に近いところに陣取る。マスク氏が中締め挨拶に向かったら、直ぐに出れるように」とのヘッジファンドのつぶやきが市場心理を表している。

金価格チャート