株式投資の民主化か規制か、バイデン政権、難渋の決断
株式レディット騒動も一巡。金は1800ドル回復。
今日のマーケットの話題は、日経平均前場600円ほど急騰。3万円大台視野。
先週金曜発表の雇用統計は悪化。待ってましたとばかりに、バイデン大統領が緊急講演。雇用悪化を放置すれば雇用回復は望めない。共和党は1/3に減らせと譲らないが、民主党案追加予算1.9兆ドルを民主党も譲れない。ここはブルーウエーブで僅差過半数だが、強行採決で乗り切る覚悟を示した。財政赤字を心配するより、まずは追加財政出動で雇用救済回復のほうが重要と訴えた。安堵した株式市場も、後送りされた財政赤字を心配する金市場も、どちらも買われるという市場心理が、今の実態を映す。
さて、以下の本文はかなり長文になったから、適当に流してくれればいい。題して、「株式投資の民主化か規制か、バイデン政権、難渋の決断」
人間の欲望を規制することは難しい。
投資家交流サイトで結束する投資家たちが「投機家集団」と化した。ウオール街の象徴的存在であるヘッジファンドの空売りの締め上げに「暫時」成功した。狙い撃ちされた代表的銘柄であるゲームストップ株は6ドル前後から一時は400ドルを超えた。
その後、高値圏では個人投機家集団の利益確定売りや、ヘッジファンド空売りの逆襲もあり同株は90ドル台まで急落。
総じて、バブルは一部小口の株式銘柄或いはコモディティーに限定され、市場全体がシステミック・リスクに揺れることなく、回復中だ。
戦い半ばから参加した初心者たちは、いきなり高値掴みの憂き目にあっている。そこで「羹に懲りてを膾を吹く」かと思えば、さにあらず。「リベンジ」を誓う投稿が「ウオールストリート・ベッツ」では目立つ。「儲けたい」「損失を取り戻したい」という人間の欲望を規制で抑え込むことは難しい。
イエレン財務長官率いる規制強化チームには、SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)も参加して「妙案」を探る。
まずは、「カリスマ」と見なされる個人投資家が業界と「共謀」して初心者集団を搾取した可能性が立証できるか。具体的事例としては、本欄2月1日付けでも紹介した、ハンドルネーム「ディープxxバリュー」さん(xxは放送禁止用語)が挙げられる。「元米生保社員」なのだが、マサチューセッツ・ミューチュアル・ライフという生命保険会社を本年1月28日づけで辞めていることが判明。同社では「投資家教育担当ディレクター」との肩書であった。そのような人物の「社外活動」を同社が許容していたのか。在職中に、「ウオールストリート・ベッツ」に自らの個人的売買記録を公開して、5時間にも及ぶユーチューブ・ライブ番組で参加者に語り続けたことを、どのように判定するのか。投資アドバイス提供に課金していなければ、サイト上なら透明性もあり、個人の立件は難しい、との元規制当局幹部の見解もある。
MIT(マサチュ―セッツ工科大学)でフィンテックについて教鞭をとり、暗号資産にも精通しているゲンスラー新SEC委員長の初仕事でもあり、「規制の凄腕」との前評判が試される展開になっている。
ゲンスラー氏を指名したバイデン大統領も、苦渋の決断を迫られている。
一般個人投資家が株式市場に参加することが「投資の民主化」とされているからだ。株式投資の恩恵は、ウオール街や富裕層に集中するのは不公平との発想だ。そこで、バイデン政権が、個人投資家集団の規制に動けば、ウオール街擁護と見なされ、中間層から突き上げられるは必至だ。その一般個人投資家向けに手数料を無料化して、手続きもアプリ経由で簡素化したロビンフッド証券は、ウオール街の既存勢力に対抗した「庶民の味方」との支持も根強い。
とはいえ、そのロビンフッド証券にも、「ウオール街との癒着」疑惑が浮上。「庶民の味方」とは名ばかりで、「赤ずきんの正体は狼か」と語られ始めた。同社は個人投資家からの大量の売買注文を金融グループのシタデルに丸投げしてリベートを受け取り、主たる収益源にしていたからだ。更に「ロビンフッド証券」のスポンサー役を果たしていたシタデルの傘下のヘッジファンドが、今回の空売り役に廻っていたことも問題視される。
シタデル社のオーナーが共和党への多額政治献金との事実も確認されている。イエレン財務長官も、民間でブルッキングズ研究所所属時代に、シタデルを含む大手金融機関から70万ドルの講演料を受領しており、「規制チーム」始動前に、個人的身辺整理に追われた。
シタデルは、個人投資家の売買注文を引き受け、自己リスクで売値、買値を設定する「マーケット・メーカー」の立場にいることも微妙だ。個人投資家に不利な値付けも、更に、空売り攻撃が激化すれば、個人からの売買注文引き受けを停止することも可能だからだ。
実際に、ロビンフッド証券は、突如、売買一時停止措置を発動した。個人投機家集団は「ゲームの途中でルールを変えるな」と猛反発した。
但し、この真相は、売買急増により、ロビンフッド証券が取引所に預託する「証拠金」の額も急増して、同社が必要とされる現金を捻出できない可能性が高まった、ということのようだ。取引所側としては、個人からの売買注文約定と売買決済の間に生じる債務不履行リスクに備え、証券会社に一定の証拠金を要求するのだ。
とはいえ、ここでも問題が指摘される。注文約定から2営業日後に決済されるという「商慣習」が、高速度取引の時代には「長すぎる」ということだ。たしかに、「2営業日後、決済」ルールは、これまで金融証券業界では「当たり前」であった。しかし、今や48時間は長い。その間に市場の景色が激変して思わぬ債務リスクが生じることも「当たり前」になりつつある。ここは今後、議論の余地があろう。
なお、証券会社がブローカーとして仲介業者となり、リスクを負う値付け業者に手数料を払うという「業界のからくり」を、これまでのSECは、「市場の公正かつ透明な価格形成に資する」として保護してきた経緯も問題を複雑化させている。根拠は3点。自己リスクで顧客の売買を引き受けるマーケット・メーカー抜きでは、市場の流動性が枯渇するリスクがある。マーケット・メーカーの間に競争原理が働き、顧客に有利な売買価格に収れんする。市場が荒れたときでも売買に習熟したマーケット・メーカーは、注文の迅速な執行に欠かせない。
筆者も、金ETFをNY証券取引所に初上場させるときに現地で直接関与してSECに日参した経験がある。そのとき、重要視されたことが、金ETFのマーケット・メーカーの質と数であった。ETFは原資産価格に正確に連動することが特徴だ。誤差(トラッキング・エラー)は最小限に留めねばならない。それゆえ、通常、マーケット・メーカー3社以上の参加が目途とされる。このマーケット・メーカーが機能不全で、上場されても、日々の売買は不成立、即ち、銘柄別売買の項目が「-」という事例が未だに少なくない。銀ETF急騰の局面もあったが、経験者として舞台裏が相当混乱していたことは想像に難くない。ただでさえ、金市場に比し、銀市場の流動性は極めて限定的だ。率直に言えば、銀や銅などのETFは担当レベルの感覚で「怖い」と感じる。
かくして、レディット・ショックは局地性バブルではあるが、市場の潜在的問題点をあぶり出し、バイデン政権が重要視する「富の格差」問題を制御することの難しさを映す展開となっている。