イエレン氏講演料70万ドル受領、規制強化前の身辺整理

レディット問題の焦点が、バイデン政権の市場規制強化という難題に移ってきた。株式市場としても非常に気になる展開だ。
ここで問題点を整理してみよう。
まず、最新の状況は、イエレン財務長官が、SEC(証券取引委員会)とCFTC(商品先物取引委員会)の市場監視機関を招集して、精査する。議会で公聴会も開催される。ところが、その前に、イエレン氏が民間ブルッキングス研究所勤務時代に、今回問題視されている金融グループのシタデルから講演料として70万ドルを受領していたことが発覚。イエレン氏は、今後、財務長官として在職中、倫理規定に抵触しないことを法律的に確定しておくという身辺整理が優先事項となった。但し、歴代の財務長官もゴールドマンサックス出身など、金融業界と遥かに大きな利害関係を持つ人物が少なくない。それに比べれば、エコノミストのイエレン氏の講演料受領は、庶民感覚では驚く額にせよ、大問題化する兆しは見られない。
さて本論だが、まず、「素人集団が結束して、空売り攻勢をかけているヘッジファンドを締め上げた」事例が、一般個人投機家のアニマル・スピリッツ(獣性)に火をつけた。その過程でプロが煽動者として介入していたとの疑惑が浮上している。当該株式売買注文の単位が大きな事例も散見され、個人の機関銃掃射的な売買攻勢と同時にプロの大型大砲攻撃も喧噪に埋もれていた可能性が指摘されている。ここでは「共謀」の有無が問われる。とはいえ、具体的規制の指針を示せと迫られるSEC(米国証券取引委員会)が、市場のデジタル化についてゆけていない。議会指名待ちのゲンスラー新SEC委員長は、暗号資産にも精通した人物ゆえ、初仕事でどこまで手腕発揮できるか。いきなり真価を問われる。

なお、「共謀」以外にも利害相克問題も焦点の一つだ。
ここでは、まず、今回のSNS個人投機家の「反乱」に際し、売買注文の窓口として存在感を高めたのロビンフッド証券がやり玉に上げられる。手数料無料化したので、利益の源泉をリベート収入に依存するという財務構造が問題視される。そのリベートを払ってくれるのが、マーケット・メーカー(値付け業者)。個人から受けた売買注文を右から左に仲介するだけで、リベート=手数料がロビンフッド社に支払われる。ではマーケット・メーカーは、どのように儲けるのか。常に自己リスクで売値と買値を提示するので、その売買値差(スプレッド)が収入になる。今回の場合、市場大混乱のどさくさに紛れて、不当に提示価格を吊り上げる行為がなかったか。あるいは、売値・買値提示を突然停止するような事例の有無などが厳しく精査されよう。
更に、そのマーケット・メーカーとしては、金融グループのシタデル社が主導的役割を果たしていたことも問題にされる。シタデル傘下のヘッジファンドが、今回所謂レディット銘柄に空売り攻勢を仕掛けていたからだ。そこに個人集団がロビンフッド社経由で集中的買い攻勢をかけていたわけで、シタデルが顧客の立場でロビンフッド社に売買停止の圧力をかけたとの個人側の疑惑も議論されよう。
更に、市場目線で懸念されるのが、オプション・空売り・ETFという市場の人気三羽烏が悪者扱いされているという傾向だ。
オプションは、そもそも投資家の損失を一定に抑えるという投資家保護の立場で開発された商品だが、今や、投機的ツールとして扱われている。オプション・プレミアムという手数料を払えば、レバレッジかけた短期的売買が出来るからだ。。
次に、空売りだが、ここは、筋の悪い空売りもあれば、投機的大規模買い攻勢でバブル化した株価を冷やす効果のある空売りもある。「空売りは市場の警察官」とも言われるが、空売りを全面禁止にすると、投機的買い方に市場が荒らされても放置する事態となるリスクをはらむ。筋の悪い空売りと、市場の価格調整機能を効かせる空売りの見極めをイエレン氏率いる規制チームも迫られよう。
そしてETF.これも安い手数料で様々な分野に手軽に投資できる個人向けツールであった。それがプロの投機的売買にも使われるようになった。今回もETFの売買記録に大口が多ければ、調査の対象となろう。そもそもETFは原資産価格に連動することが特徴であった。しかし、正確に連動するか否かはマーケット・メーカー次第だ。売り唱え・買い唱えに「身内のファンドへの忖度」という要素が入れば、議論の対象となろう。実際に、ヘッジファンドのシタデルは四半期ごとの運用銘柄開示をSECに義務づけられているが、ブラックロック社のiシェアーズのなかの銀ETFの保有額が明記されている。そのETFのマーケット・メーカーの一社がシタデル・グループなのだ。
総じて、議会公聴会では、民主党左派議員を中心にエリート集団の代表格としてのウオール街批判と、中間層擁護の姿勢が強調されそうだ。これまでバイデン政権のリフレ政策に乗ってきた株価も、規制強化・株式投資家への売買益課税など負の側面と対峙せねばならない。その口火を切ったのが、レディット個人連合という巡り合わせになっている。
共和党がバイデン政権の1.9兆ドル追加予算案を1/3まで減額と迫っており、市場では民主党がリコンシリエーションと呼ばれる「最後の切り札」で強行採決するとの観測が株価を支えている。そこに、規制強化という逆風と、好調な大手ハイテク企業決算という追い風が交錯状態だ。レディット個人連合が誘発した市場波乱が、政治問題化の色合いを強め、NY市場の目も首都ワシントンに向いている。