米ネット証券炎上、日本も他人事ではない
米交流サイト・レディット上で結束した個人投機家連合が、空売りヘッジファンドを締め上げた件は、昨日、新たな展開を迎えた。
一部米ネット証券が標的にされた株式について売買制限措置を発動。売り手仕舞い以外の売買を受け付けず、証拠金も引きあげるという措置。代表的ネット証券会長がテレビ生出演したが、個人投機家の逆鱗に触れ、炎上のごとき状況になった。
「ゲームの途中でいきなりルールを変えるな」との声が上がる。
SEC(証券取引委員会)も事態注視の声明を出したが、個人投機家集団の「共謀行為」が立証できるかがカギになる。
ここでも個人投機家たちが反発を強める。
ナスダックも状況次第で取引停止の姿勢を見せた。ヘッジファンドが損失埋め合わせのため保有資産売却に走るとの観測も流れる。
個人側は「ヘッジファンドは空売り攻勢で株価を崩し、個人投資家を苛めてきた。それが、ヘッジファンドが空売り損切りを強いられるや、規制強化で救済されるようなものだ。」と不公平感を募らせる。
エリート軍団のスマート・マネーに対する庶民層の「格差感覚」が根強い。
更に、政治問題にも発展。
予想されたことだが、民主党急進左派のウオーレン議員がツイート、更に20分以上のテレビ生出演で「SECは手ぬるい」と強硬論を語った。
「そもそもコロナ禍で多数の失業者が苦しむ状況で株式市場というカジノを放置するのか。SECは価格操作に甘すぎる。富裕税課税も当然だ。」
喧嘩両成敗というより、ヘッジファンドを想定した発言が目立ち、レディット投機家集団に関して問われると、調べてみたいと分からないとの姿勢であった。
議会公聴会で議論も視野に入る。
ウオール街でも激論が交わされる。筆者が参加している30人ほどの私的グループ内のZOOMテレカンでも、普段は仲良い仲間たちが、喧嘩腰で言い合い、一時は収拾がつかなくなったほどだ。
本来、今週は重要な決算ウイークでFOMCもあったのだが、話題はレディット関連一色だ。
ウオール街を敵視する個人投機家集団が、ネット上で結束すれば、ヘッジファンドを締め上げることも出来る術を覚えた。これは一過性では済まされない。
更に、バイデン政権の掲げる規制強化、法人増税、株式売買益課税などがハネムーン期間後には浮上する可能性もあり、心中穏やかではない。
火の粉はパウエルFRB議長やイエレン財務長官にまで及ぶ。
そもそも、過剰流動性や一律個人給付金が、自宅待機で時間を持て余すミレニアル世代の射幸心を刺激したのではないか、との指摘だ。
更に、問題は、フェイスブックやツイッターなどのネット・プラットフォーム規制関連にも飛び火。レディット規制論まで飛び出す。レディットは本来「なんでもお助けサイト」的な存在で筆者も時々英語の単語に迷ったときなどお世話になっている。今回はそのなかの「ウオールストリート・ベット(賭けの意)」が個人投機家連合の場になった。そこで、若者投機家の親たちからは「ネット上の暴徒が、我が家の息子を鉄火場に誘い込んだ」ごとき批判が出てきた。議会占拠事件の衝撃が生々しく残る発言だ。当のレディット創始者に対しても厳しい視線が向けられるが、「まさか、こんなことになるとは」と絶句のごとき状況だ。
さて、この問題は、日本にとって、「対岸の火事」では済まされまい。
東京株式市場の売買の7割前後はガイジン・プレーヤーによって占められ、時には荒らされ、日中からダウ時間外先物相場に一喜一憂しているのが実態だ。最後は日銀頼みの官製相場。NY市場のグループ内では、東京市場が、コロニー(植民地)とまで言われている。自分たちである程度操れる市場との意味だ。日本の個人投資家は略称インバ(逆張りETF)がお好きでネット証券会社の主力商品、との定評も心得ている。
そこに、コロナ禍で自宅待機が増え、ネット証券口座が急増した。米国人個人投機家集団が結束してプロに勝った、という事例は刺激的だ。筆者もネット・セミナーで接しているが、課題は、お行儀良い短期投資、或いは、長期的積み立て制度に軟着陸出来るか。ここは金融リテラシーのレベルアップが急務だろう。まだ株式投資初心者にとってESG投資への理解へのハードルは高いが、初期時点からの啓もうが必須だ。
難局だが、「貯蓄から投資へ」の健全な流れを後押しする、またとないチャンスでもあるのだ。
この喧噪に、金市場は去勢された如くすっかり埋もれた感あり。1830-50のレンジで推移。
今朝の日経朝刊商品面で2020年金需給の良くまとまった記事が載っているから、参照のこと。
さて、もう一つ気になるのは、ワクチン関連。ドイツ専門家会議が「65歳以上の高齢者への英製薬大手アストラゼネカ社とオックスフォード大学共同開発ワクチン接種を控えよ」と勧告。
これ実はEU離脱遺恨試合みたいな複雑な政治問題が絡む。
同社ワクチンのEU向け供給は遅れ、理由が、「EU域内工場の生産の遅れ」。
そこでEU側が激怒。「域外工場での生産分を廻せ」と猛反発してきた経緯がある。
ワクチン獲得競争は熾烈。日本は明らかに周回遅れだ。厚生省の官僚の壁がネック。国際的駆け引きも得意ではないし。交渉上手の人材が必要だね。アストラゼネカ社分は日本生産ということらしいけど。ファイザー社分とモデルナ社分については、日本への本格供給は今年後半から年末くらいまで当初の予定より大幅に遅れるのではないかな。いつのまにか、契約が年末まで、に変わっているから。加えて、日本の接種拒否の抵抗感は韓国と並び世界的に突出している。そこに東京五輪強行開催で南ア種など水際すり抜けると、南ア種に対する有効性は各社ワクチンとも相対的に劣るとの臨床結果も。