新大統領就任後の市場、ハネムーンも自粛か

バイデン次期大統領の1.9兆ドル予算案は15日のNY市場で「売り」の洗礼を浴びた。既に2兆ドル規模との「前評判」を織り込んでいたので利益確定売りが先行したかたちだ。とはいえ、過剰流動性相場に沸いてきたNY市場の「ハネムーン相場期待感」は依然根強い。
ところがワシントンでは、1.9兆ドルは「叩き台」「民主共和、議会内折衝の始まり」「どこまで実現可能か」との冷ややかな政治的見解が目立つ。
NBCが発表した最新世論調査でも、トランプ大統領の支持率は43%と、就任時の44%から殆ど変わっていない。「米国民主主義の危機」が叫ばれ、弾劾審議が進むなかでも、トランプ支持派の結束は堅い。今回の大統領選挙に「不正があった」と見る人も35%に達する。公正な選挙との評価は61%だ。
バイデン民主党政権の船出は荒れ模様である。
市場の流れを冷静に見ても、新大統領就任前に兆ドル単位で繰り出されるコロナ支援対策を囃して、ダウは既に3万の大台を超えた。ワクチン相場も、期待の高揚感から、接種の厳しい現実に対峙せねばならない段階に入った。接種予定数は未達。ワクチン備蓄を放出せよとの声もあがるが、この「備蓄」は2回目接種に備えての在庫である。バイデン氏は「就任後100日以内に1億人接種」の目標を明示したので、いきなり「ハネムーン相場」も試される展開だ。
更に、今週はイエレン次期財務長官の議会承認プロセスが始まる。「パウエルFRB議長とイエレン氏との連携」への期待感は強い。そこに、ウオール・ストリート・ジャーナル紙は「イエレン氏が通貨安競争的なドル安は追求しないと明言する」との観測記事を流した。
ときあたかも、市場では「経済回復後のテーパリング(量的緩和縮小)の可能性」が論じられている。これはドル高のシナリオだ。イエレン次期財務長官が国債超増発を容認すればするほど、ドル金利には上昇圧力がかかるので、FRBゼロ金利政策の本気度が試される展開になろう。
株式市場の潮目の変化を先取りして、プット・オプション(売る権利)購入でヘッジする動きも一部では出始めた。
なお、日本株関連ではNYタイムズ紙が「東京五輪中止の可能性」との観測記事を流した。NY市場では、感染力の強い変異種が顕在化した昨年12月の時点で、「期待される経済効果のある規模での五輪開催は無理筋」と見解が増えていた。詳細は本欄12月28日づけ「変異リスク、東京五輪に暗雲、21年市場予測は修正も」を参照されたい。
総じて、ハネムーンを待ちきれず動いた市場が、結婚直後から厳しい現実に直面する流れになりそうな予感が漂う。
国際金価格も依然歴史的高値圏にあるが、いっぽうで1900ドル以上は上げきれない。ドル金利上昇、ドル高のシナリオが意識されているからだ。繰り返しになるが、金価格が本格上昇するのは、「悪い金利上昇」になるとき。年後半に、米国債増発で米国財政赤字が問題視されるとき、発行体のない(ソブリンリスクがゼロの)金の出番となろう。