バイデン・リフレ策発表、市場は「お手並み拝見」
バイデン次期大統領のコロナ支援関連講演は日本時間15日午前9時過ぎから始まった。米国市場で重要材料視されているので、世界が注目した。
冒頭で、株価上昇に言及して、「富の格差」を生む要因と位置付けた。トランプ氏の株価重視とは異なり、一定の距離を置く姿勢に、市場は身構える。
そして本論の予算規模。コロナ対策を第一弾と位置付け、実質的にバイデン政権の初仕事となる展開だ。第二弾として、選挙公約のグリーンエネルギー関連とインフラ投資に投入する予算案を明らかにする、という筋書きである。
その第一弾は1.9兆ドル。そもそも民主党案が2兆ドル、共和党案が5千憶ドル程度から「摺り寄せ」が始まったので、結局ブルーウエーブの勢いで民主党案を通すという強気の姿勢だ。
市場の反応は、総額2兆ドル近くなら、想定より高い水準ゆえ、大筋歓迎。とはいえ、この案がどこまで実現するのか、懐疑的な見解も根強い。
まず給付金を原案から1400ドル上乗せして2000ドルとした件は、共和党内で財政均衡派が難色を示してきたが、そもそも2000ドルへの増額を提示したのはトランプ大統領ゆえ、最終的に受け入れられた。2022年中間選挙には熱狂的トランプ支持者の票が必要とされ、「応援演説」を期待しての配慮であろう。しかし、弾劾の影響は甚大ゆえ、トランプ氏追放の動きも出始めている。バイデン陣営から見れば「薄氷の合意」との印象もあろう。
州政府など地方自治体への予算支援も、共和党が一貫して反対してきたところだ。ここでは、バイデン氏の長年の盟友マコーネル共和党院内総務との「阿吽の呼吸」の根回しが効いたようだ。ここでバイデン氏は「借り」を作ったが、いずれ増税が議論されるときには、法人税21%から28%へ増税案を25%程度に抑えることで「借りを返す」シナリオなどが考えられる。「腹芸」はバイデン氏の得意技だ。市場の視点では、トランプ・リスクも予見不能であったが、バイデン氏の「腹の内」も読みづらい。
バイデン氏は今後も議会合意に向け二つのカードを持つ。
まず目指すは超党派合意。特にワクチン対策や学校再開支援には共和党も支持の姿勢だ。雇用支援にも緊急性がある。最新雇用統計は非農業部門新規雇用者14万人減。更に14日発表の新規失業保険申請者数も昨年3月以来の大幅増で100万件の大台に接近した。ここは今年3月に期限切れとなる失業保険上乗せを9月まで週400ドル増額することに異論はなかろう。
更に、今後は、例えば国外利益への課税強化という面で、GAFA狙い撃ちとなれば両党賛成の可能性がある。
とはいえ、共和党があくまで反対姿勢を貫く項目があれば、「財政調整法=リコンシリエーション」という切り札を使い、強行突破の選択肢もある。これは特定財政案件につき、上院で通常の60票ではなく副大統領の決定票も含め51票の多数決で決定できる特殊ルートだ。時間がかかり、認められる件数も限定されるので、最後の備えとして極力温存されよう。ちなみに、この手段は、民主党急進左派サンダース上院議員が積極的な使用を唱えている。
なお、バイデン氏には「時間との戦い」も待ち受ける。
既に「大統領就任後100日以内に1億人にワクチン接種」という具体的目標を掲げた。そのためには、コロナ検査支援500億ドルとワクチン接種促進のための200億ドルは欠かせない。ところが、議会での弾劾審議が今のペースだと1月19日(大統領就任日1月20日の前日)まで続くリスクがある。ここは弾劾議論も頃合いを見計らって収め、予算審議に移ってほしいというのが本音であろう。
バイデン次期大統領のデビュー戦は綱渡りの連続となりそうだ。
金に関して注目点は、バイデン次期大統領が、あくまで財源の多くを国債増発に依存して、増税案は骨抜き気味なこと。これはリスクだ。