大統領選直前の第二波、市場は青い津波に警戒
「秋のウイルス第二波」はかねてから市場内で波乱要因と意識されてきた。しかし、欧米感染者急増のタイミングが大統領選2週間前というリスクシナリオまでは織り込まれていなかった。海千山千のヘッジファンドのツワモノたちも、今回ばかりは待ちの姿勢に徹している。米IT銘柄急騰の恩恵を受け、一定のリターンは確保している。ここで敢えて冒険しても、リスクに見合う追加的リターンは期待薄だ。
支持率劣勢で焦るトランプ大統領の言動は、NY市場内でも「常軌を逸している」と受け止められている。「感染した人たちの85%はマスクをしていた」と根拠が極めて疑わしい統計数字を引用。コロナ対策での失点から議論をそらす意図が露骨に透ける。共和党内部での造反も顕在化してきた。ベン・サス上院議員(ネブラスカ州)は、コロナ対策の初期誤作動が、民主党大統領・議会選圧勝の「ブルー・ツナミ」を招くと非難を強めている。クリス・クリスティー前ニュージャージ―州知事(共和党)はコロナ陽性となり1週間ほど集中治療室入り後回復。「マスクしていなかったことを反省している」と告白した。大統領側近として、クラスターを招いたとされるホワイトハウス庭内でのイベントにも第三列に座り参加していたことが報道写真で確認されている。「第三列まではウイルス検査済」と事前に告げられたとのことだが、本人も検査を受けていなかった。更に、その問題の最高裁新女性判事候補イベントの前に検査を受けたか否か「バイデン氏と同時刻開催の対話集会」で司会者から聞かれたトランプ大統領は「検査したかもしれない、しなかったかもしれない」と答えた。更に突っ込まれると「大統領はホワイトハウスの一室に籠っていては務まらないのだ」と声を荒げ話題をそらせている。
対するバイデン氏の同時刻集会での発言にも市場はざわめいた。
「トランプ氏はウイルスの実態を明らかにせず、楽観論ばかり述べてきた。実態を語ると株価が急落するからだ。彼は株価ばかりを気にしている」
マーケットも本音では、次期大統領に株価への配慮も怠ってほしくない。バイデン氏は、かねてから「株価」や「マーケット」から距離を置く姿勢を表明してきたが、対話集会でも明確に表現されると、市場の思いも複雑になる。
そもそも、法人税21%から28%への引き上げや株売買益に対する39%ほどの課税から成る「バイデン増税」が市場内ではリスク視されてきた。とはいえ、予想されるインフラ投資の額が共和党より民主党のほうが大きいので、増税のマイナス経済効果も相殺されるとの読みが直近では高まってきた矢先のことだった。それだけにバイデン候補が、ウオール街を敵視する民主党内左派へ配慮を見せたことには身構えざるを得ないのだ。
特に、商品市場のトレーダーたちはハラハラして見守っている。大手投資銀行の自己勘定原油売買を規制するドッドフランク法(金融改革法)はトランプ政権下で規制緩和され、解雇されたトレーダーが再雇用などの事例が見られた。しかし、バイデン政権となれば、再び締め付けが厳しくなりそうだ。
なお、足元で市場の最大関心事は、対コロナ追加財政支援案の行方だ。一時は凍結を指示したトランプ氏も、第二波による経済復興の遅れを意識して、総論支持に転じている。総額2.2兆ドルの民主党案に対して、1.8兆ドルまで共和党は歩み寄った。ペロシ下院議長も週末に「48時間以内に合意の可能性」を示唆した。しかし、交渉相手のムニューシン財務長官は中東出張中である。まだ溝は深い。市場内では年内合意を諦めるムードも漂うなか、16日金曜日のダウ平均は大引け直前に週末控えたポジション調整と見られる売りに見舞われ、上げ幅を急速に縮小。かろうじて前日比では112ドル高で引けた、との印象が残る。
大統領選挙の郵便投票の不備も実例として出始めた。選挙結果の有効性が問われ長期化するリスクシナリオも、「ブルー・ツナミ」予測の下で若干下火になっていた。しかし、多少なりとも現実味を帯びると、市場が最も嫌う「不透明感」が強まる。恐怖指数とされるVIXも27台と、危機的水準とされる30の大台目前の水準で高止まり気味だ。
NY市場の視点では、コロナ感染者増加州が大統領選挙激戦州と重なる傾向も注目されている。実例としては北カロライナ州などの名前が挙がる。同州でのバイデン候補のリードを3%台とする世論調査結果もある。
かくして異例の展開は今週も続きそうだ。
金市場も翻弄されつつある。
なお、日経17日土曜日朝刊「マネーのまなび」に「金投資、目的ごとに選択肢」という記事が出ている。
「金の果実」について三菱UFJ信託銀行の林恒・証券代行部調査役は「今年春ごろから問い合わせが増えた」と話し、純資産総額は増加傾向が続き。7月末に1300億円を超えた、と語っている。なお、その記事の見出しで「保有なら地金、運用は投信」とあるが、金ETF(上場信託)は元来、年金基金や個人投資家の長期保有を前提に商品開発された。最近はヘッジファンドや短期売買の個人投資家により、金売買のツールとしても使われるようになっている。