トランプ朝令暮改、市場は次期政権視野

「ゴー!ビッグ!(大きく行け!)」
先週金曜のNY市場では、トランプ氏のこの一言ツイートでNY株価が急伸。ダウ平均は161ドル高で引けた。金は30ドルほど急伸。1920ドル台で推移している。
「大きく行け」とは、コロナ対策としての包括的追加財政支援の金額のことだ。
そもそもムニューシン財務長官とペロシ下院議長の間でまとまりかけていた包括的経済支援案に対して、トランプ大統領は突然のツイートで「交渉打ち切り」を告げ、代替案として部分的支援案を提示していた。株価は急落していた。
支持率も急落するなかで、さすがに考え直したのか、9日金曜日に、再びツイートで「大規模の包括的支援案で行け!」と態度を一転させたのだ。
相変わらずの朝令暮改だが、株式市場にとって悪い話ではないので株価は上昇したわけだ。
新トランプ案では、総額を1.6兆ドルから1.8兆ドルに引き上げている。しかし、2.2兆ドルの民主党案との溝は容易に埋まらない。
ペロシ氏も、コロナ検査・追跡調査費、失業保険金上乗せ金額、そして子供への支援が不十分と、トランプ案を一蹴した。
更に共和党内部からも、既にコロナ対策財政支出が3兆ドル近くに達するので、これ以上の大型追加支援は「やり過ぎ」との批判的見解が噴出している。
共和党議員からの不満を突き付けられたメドウズ大統領首席補佐官は「(その不満を)大統領に言上したら、私の葬式になる」とブラック・ジョークを発している。トランプ氏の病状を「心配」と記者団に語り、大統領から大目玉を食らった経緯もあるからだ。
更にメドウズ氏はムニューシン財務長官と連名で議会宛てに「せめて、PPP(既に実行中の中小企業の従業員給与を肩代わりする支援策)に未だ残りがあるので歳出に廻せる」と訴えている。
いっぽう、我が道を行くトランプ氏自身は、週末に、ラジオで「はっきり言おう。私は、共和党案よりも民主党案よりも大きな額を考えている」と語った。
このときは、さすがに「殿、ご乱心」とばかりに、ホワイトハウス報道官が「トランプ政権としては2兆ドル以下を望んでいる」と火消しに走った。

見かねたパウエルFRB議長は「財政支援が多すぎるリスクより少なすぎるリスクのほうが大きい」と議会に合意を促している。
しかし現時点で米議会の関心は、コロナ対策追加支援より最高裁判事新指名に関する承認公聴会にある。
かくして二転三転するトランプ・ツイートに痺れを切らせた市場は、年内追加財政支援合意を見切り、バイデン政権下で見込まれる大規模インフラ投資のほうを織り込む方向に動き始めている。
各種世論調査がブルー・ウエイブ(民主党、大統領選に議会選も勝利のシナリオ)の確度が高まりつつあることを示しているからだ。
焦る現職大統領は、コロナ感染からの「全快」を強調して、選挙戦に自ら再参入の意向を明確にしている。多くの米国民が不安げに見守るなかで、NY市場は2021年予想されるマクロ経済シナリオを吟味中である。
なお、NY金は、最近、NY株価と正の相関傾向を強めている。その理由は、NY株が上がると、NY外為市場で「安全通貨」とされる米ドルが売られ、ドル安になるからだ。足元でドルインデックスも93を割り込みそうな情勢である。東京市場では「円こそ安全通貨」との見方が常識的となっているが、NY市場では、円も安全通貨の範疇に入るものの、やはり「ドルこそ王様」と見られているのだ。米国人の自負心とでも言えようか。この市場による受け止め方の違いは、認識しておく必要があろう。
最後に、以下の記事が出た。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64826930Z01C20A0QM8000/

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