「コロナと戦い生還した男」の評価は?

主治医は「未だ予断許さず」と語った。それでもトランプ大統領は早期退院を強行した。大統領選挙で巻き返しを図り「コロナと戦い生還した男」のイメージを訴求しているかのようだ。報道陣の写真撮影の場では、さっそくマスクを取ってみせた。既にホワイトハウスにはクラスターが発生。スーパー・スプレッダー(コロナ拡散の中核人物)は誰か。米国メディアはトランプ流にいえば「魔女狩り」に走っている。既にホワイトハウス内の感染拡大で、実質的に指令本部「空洞化」のリスクが指摘される。トランプ大統領退院で、政治混乱が回避された、との実感は薄い。
今、市場が意識せざるを得ないシナリオは、まず、トランプ氏の容体急変、再入院リスク。大統領もコロナも気まぐれゆえ、主治医が語ったように「余談を許さない」。
次に、ムニューシン財務長官の感染リスクだ。マーケットが現時点で最も注目しているのは、トランプ氏退院より、兆ドル規模の追加経済対策案の議会での審議進展状況と言ってもよい。頼みは、ムニューシン財務長官とペロシ下院議長の間に敷かれているとされる「ホットライン」。ここで万が一ムニューシン氏が第一線から退くことになれば、同案の議会合意は大統領選挙後にもつれこむであろう。市場は昨日のダウ平均465ドル高により、議会合意を先取りするかたちで織り込みつつある。ムニューシン氏にはホワイトハウスに出入りせず、トランプ大統領との連絡もリモートに徹してほしい、ということが市場の切なる願いだ。
昨日のNY市場で最も注目された現象は、債券市場で米10年債利回りが0.77%まで急伸したこと。追加経済対策が決着すればインフレ期待も高まり、実質イールドのマイナス幅は更に拡大する、との見立てだ。先走り気味だが、マーケットは時ならぬ「リスクオン」に傾いている。NYの外為市場では「円ではなく米ドルこそ安全通貨」との認識が強いので、ドルは売られ、ドルインデックスは93台まで下落した。しかし、安全資産とされる金は買われ1910ドル台に乗せた。ドル安が効いている。
一般メディア、そして米国民の関心は圧倒的にトランプ氏退院にあるが、NY市場は、支持率でかなり水を開けたバイデン有利を前提に動き始めている。追加経済対策も民主党案は2兆ドル超規模で、共和党案より「大盤振る舞い」だ。
健康状態が不安定なトランプ大統領は、徐々にレームダック化してゆくのか。あるいは、今や「自らの体験」としてコロナを語れるトランプ氏が「未決定層」に食い込めるのか。
バイデン氏が粛々と大統領選挙戦を展開するなかで、帰趨を決めるのは、やはりトランプ氏次第のごとき情勢となってきた。