2024年以降も金高値圏の可能性浮上
8月のジャクソンホール中央銀行フォーラムでパウエルFRB議長は米国インフレ率が「平均」2%を超えても緩和を続けるとの金融政策の歴史的転換を発表した。それゆえ、今回の9月FOMCで、追加緩和について具体的に同氏が何か語るのか、市場は期待をいだき見守った。
「平均」2%とは、具体的に何%まで許容するのか。量的緩和の増量はあるのか。金融政策の方向性を明示するフォワードガイダンスとして特に新たな要素が加わるのか。
しかし、FOMC後の恒例記者会見で、パウエル氏が市場の「おねだり」に答えることはなかった。一時前日比360超高まで上昇していたダウ平均も、パウエル記者会見中に下げ続け、結局36高で引けた。債券市場では金利が上昇。10年債利回りが0.6%台から0.7%台の攻防になった。
記者会見でパウエル議長は、インフレ率のオーバーシュートを許容することを正式にFOMC声明文に盛り込んだことを「強力な政策」と、しきりに強調した。自画自賛の如き印象さえ与えた。
今回のFOMCでは2名の反対者がいたので、あえて配慮して詳細な説明を回避したのかもしれない。カシュカリ・ミネアポリス地区連銀総裁(一貫したハト派)とカプラン・ダラス地区連銀総裁(中道派)がそれぞれ異論を唱えている。
「財政政策の重要性」も繰り返し言及された。しかし、議会は紛糾。未だに追加的財政支援策は決まっていない。
マーケットにはモヤモヤ感が残る。
とはいえ、FOMC参加者の金利予測(いわゆるドット・チャート)を見れば、少なくとも2023年までゼロ金利が継続される見通しだ。2024年以降の「長期」にやっと「利上げ」のシナリオだ。
更に今回発表されたFRB経済見通しでは2023年の予想インフレ率が2%に留まる。金融政策を全開モードにしても、2%超えは達成できないことになる。2024年以降(長期)も予想インフレ率は2%と記されている。2024年に限れば未だ利上げできずゼロ金利の可能性さえ残る。いずれにせよ金高値圏維持にお墨付きを与えたようなものだ。
なお、今後のFRBの政策課題としては、コロナ禍で困窮している産業セクターに必要なマネーが行き渡ることが重要だ。FRBが民間企業に融資するという前例なき緊急措置が発表されたが、手続きが煩雑で結局民間の銀行融資で賄われている。社債購入も未だ実施事例は限定的だ。追加緩和の前にやるべきことは山積している。
マーケットも、単に追加金融政策の有無に一喜一憂するのではなく、発表済みの対コロナ対策の実行度をまずは確認すべきであろう。