ソフトバンクのヘッジファンド化
米国は労働者の日(レーバー・デイ)3連休中。
そこに降って湧いたように、最近の米国株、特に大手IT企業中心のナスダック急騰急落の影にソフトバンクが関与している、との報道が相次いで流れた。
アップルなどの主要IT企業のコール・オプションを邦貨換算で4000億円超購入そして売却していた、との消息筋の談話を引用している。
コール・オプションは一定価格で買える権利ゆえ、当該株価が安いときに買い、上がったときに売れば儲かる。仮に、予測が外れ、その株価が下がってしまった場合には、コール・オプションの買い手は「一定価格で買う権利」を行使しなければ、損失を手数料程度(オプション・プレミアム)に限定できる。
例えばアップルの株価は、ここ数日、急落しているとはいえ、過去1年間に126%も急騰している。それゆえ、コール・オプション買いトレードは大儲けしていると見て良いであろう。
問題は、一般企業のソフトバンクが、ヘッジファンドのごとく、株の短期売買に走っていた、というところだ。
同社は、というより、名物社長の孫さんは、これまで、自社ファンドを通じて、スタートアップの有望新興企業育成のため長期保有で当該株式を購入保有してきた。
ところが、最近は、その失敗例が相次ぎ明るみに出て、投入した資金を回収できず、自己保有資産の切り売りを強いられる、という厳しい状況にあった。
そこで、おそらく、ヘッジファンドまがいの投機的と言われても仕方がない株売買に手を出したのであろう。
4000億円という金額は株式オプション市場で「巨額」ではないが、短期間集中売買すれば、市場を動かせる可能性は否定できない。
更に、このオプション取引の相手方になった業者の売買も株価の乱高下を増幅させた。
業者の立場では、コール・オプションを売った後で、株価が急騰すれば、買う権利を行使された場合に備え、その株式を買っておかねばならないからだ。こうしてヘッジ買いしたあとで、今回のように、株価が急落すると、業者は慌てて買った株式を売ることになる。かくして、株価の乱高下が増幅する結果となるのだ。
NY市場では、コロナ禍にも関わらず過去最高値まで上昇を続ける株価と、悪化した実体経済の「遊離」が指摘されて久しい。
それゆえ、異常な株価上昇劇の舞台裏で孫さんが動いていたのか、と認識されている。なお、自宅待機で時間を持て余す投資初心者たちが、アプリを通じて、気楽に株を売買する術を覚えたことも、乱高下要因の一つとされる。FXの世界ではミセス・ワタナベの存在が今や外為市場の一大勢力になったが、その株式市場バージョンがミレニアル世代を中心に存在感を強めているのだ。
ソフトバンクの件は、今後、詳細が明るみに出よう。
仮に、(そういうことにはならないだろうが)孫さんが、バフェットさん同様に金投資にも分散していたら、金市場は反応するかも。
ところで、バフェットさんの語録で、なるほどと納得した名言。
「毎日地下鉄で通勤してくる人間の話に、ロールスロイスで乗り込む人間が耳を傾けるという珍現象が見られるのはウオール街だけ」筆者も、つつましい2DKのマイホームから都心に出勤してくる人たちが富裕層の顧客の気持ちが本当に分かっているのか、理解に苦しむ事例に時折遭遇する。更に富裕層といっても、小金持ちと大金持ちに差がある。一流ホテルで開催される富裕層セミナーに、外車で乗り付け、ブランドもので身を飾るのは小金持ち。本当の大金持ちは、地味ないで立ちで、公共交通機関を使いやってくる。要は、目立ち捕捉されることを極力嫌い、本能的に群衆のなかに紛れるのだ。セミナーもオープンではなく参加者限定のクローズ型を好む。金に関する質問も、どこまで上がるか、ではなく、下がるとすれば、どこまで下がるかを知りたがる。金は守る資産ということを本能的に感じ取っているのだ。バブル時代に業者の言うがままに投資して大損した体験者も多いので、銀行や証券会社を信じない人たちが多いことも特徴である。