金とインフレについて
基本的に金はインフレに強い資産と言われます。たしかに、1970年代はオイルショックで物価が二桁の増加率で上昇する、という経済環境でした。当時は物価は放置すれば上がって当然。とにかく家計を守るために物価上昇を抑えるべき、との意見が支配的でした。そのような市場環境で金価格は1980年に875ドルという当時としては史上最高値をつけたのです。およそ3倍以上の暴騰でした。
インフレなど「死語」になり、デフレ・ディスインフレに取りつかれ、物価上昇率2%達成も困難という現在の状況との対比が鮮明です。
デフレ・マインドから脱出できない今、金価格が史上最高値を更新した、という事実も考えさせられますね。
結論から言えば、金はインフレにもデフレにも強い資産ということになります。デフレで債務不履行や企業倒産が急増するとか、国債が格下げになるという状況になると、安全資産としての金が買われるということです。
ではインフレにもデフレにも強い資産が下がる経済環境とは、どのような状態でしょうか。
それは「ゴールディロックス」。適温経済と訳されますが、熱すぎず過熱したインフレではなく、冷えすぎずデフレでもない、すなわち、適温の経済状態が続けば、金の出番は無いわけです。
さて、今回はディスインフレという環境で金価格が上がってきたのですが、ここにきて、俄かにインフレリスクも意識されるようになっています。米国では兆ドルという未曽有の規模で財政出動と金融緩和が進行しています。あくまで対コロナ有事対応ということで正当化されるわけですが、以前にも書いたように、借金は借金。消えることはありません。英語ではThere is no free lunch タダのランチはない。意訳すれば、タダほど高いものはない、ということになりましょうか。兆ドル規模の経済支援を行った国は、兆ドル規模の債務をかかえることになるわけです。そのために、国の借金証文である国債を兆ドル規模で増発せざるを得ない。その新発国債は、中央銀行であるFRBが粛々と買い取る(量的緩和)ことになりますから、財政・金融政策の一体化でマネーばら撒き作戦が展開されることになります。これが現代版インフレの始まりですね。結局、究極の対デフレ政策はインフレ政策なのです。
しかし、物価が2%にも上がらない、という経済状況が長く続いてきたので、「リーマンショック後でも量的緩和やったが、結局インフレにならなかったではないか」との反論も根強く語られます。しかし、コロナという予期せぬウイルスの出現で、命を守るための経済規制と、雇用を守るための経済支援政策が両立しない今、過去との比較は説得力に欠けます。これまでは、こうだった、と言われても、経済と市場が激変していますからね。比較の対象になりません。未知の領域なのです。
つくづく、これまでの「常識」が通用しないニューノーマル=新常態ということを肌で感じています。
なお、昨日の金国際価格は2%反騰して1950ドル台まで戻してきました。