総合取引所、大阪にオープン
金、農産物の商品先物と、株価指数先物取引を一体化、つまり、同じ取引所で売買できる、という総合取引所が、大阪にオープンしました。原油先物は東京に残すという妥協案で成立したので、金先物は大阪、原油先物は東京という、極めて不自然な結果になっています。
この総合取引所が、メディアでは話題になっていますが、私は、懐疑的です。
そもそも総合取引所は、海外では当たり前の話なので、日本は周回遅れ。今更、日本に作ったところで、海外の投資マネーが、わざわざ日本で、それも円建てで売買することは、必然性もなく、現実的に無理筋です。アジア時間帯なら、シンガポール、香港、上海で、いくらでも取引できます。英語が不自由で、居住コストも高い日本で売買する必要がありません。最近、香港危機で、日本に国際金融市場機能を誘致との動きもありますが、日本には国際感覚を持ち英語を駆使して売買を行う人材が圧倒的に少ない。民族的にも、そういうことは不得手です。日本人はプラント建設のように、プロジェクトチームでじっくり作り上げる仕事に向いている民族です。例えば、欧州でも、目先が効く売買はスイス人、マネジメントはオランダ人。それぞれ得意分野に特化しています。
更に、日本の金先物市場もお粗末です。最近も、新聞で派手に広告を打っていた商品先物会社が、過去5年間、不適切な内部行為があったことが発覚して、その会社の顧客が巻き込まれたばかりです。コンプライアンスのレベルが低い。商品先物の顧客層も縮小傾向。実は米国でも同じような状況から、商品先物会社が次々に大手投資銀行に買収されていった、という経緯があります。実例としては、シアソンという商品取引会社が、リーマンブラザースに買収され、シアソン・リーマンとなり、やがて、シアソンの名前が無くなって、リーマン・ブラザースの一部に同化してゆきました。日本でも、今後、例えば、三菱コモディティーズとか住友コモディティーズのように系列化してゆくと見ています。コモディティーズは、今後の成長部門として見込めるので、大手金融資本は、優秀な「商品」の専門家を取り込んでゆくでしょう。商品先物会社でも、若手に熱心で優秀な人材は居ます。
ただ、その業界再編には5年以上かかると思われます。それまで総合取引所が国際的取引所の激しい競争の中で生き残れるか。分かりません。
そもそも日本には商品先物関連で悪徳商法の事例が多かったという歴史があり、ヘッジを含め、本来の商品先物のニーズが希薄です。一般サラリーマンや主婦が商品先物会社の敷居をまたぐことは、心理的に「冒険」でしょう。ハイリスク・ハイリターンが売り物なので、まずリスクに慣れることが大前提。私は、金先物の短期売買は、個人投資家に「控えよ」と警鐘を鳴らしてきました。私自身、金先物関係のセミナーには一切出ません。良き後輩で家族ぐるみの友人の亀井幸一郎と池水雄一と明確に一線を画すところでもあります。「金は現物を長期保有」が私の信念なのです。
私はスイス銀行時代にシカゴの商品先物会社に出向したことがあります。そこで、本来の商品先物の姿を見ました。例えば、穀物の生産者は収穫期の9月に一定の価格で売れれば、農家の経営計画も立てられます。そこで、シカゴの先物市場で、9月ものを売る場合に、買い方に廻ってくれるスペキュレーター(投機家)がいないと売買が成立しません。リスクをとり売買するスペキュレーターは日本では悪いイメージがつきまといますが、シカゴでは、農家の経営を助けるという社会的役割を果たすというプライドを持っているのです。息子の学校のPTAで、父の職業を「スペキュレーター」と胸張っていえる社会的風土なのです。そのような経験を経て、日本の商品先物業界に接したとき、愕然としたことを今でも鮮明に覚えています。日本では、そもそもヘッジのニーズが発達していないので、結局、単なるマネーゲームの世界になってしまったわけです。
日本の金先物市場も、商品先物会社の社長がテレビカメラの前で刺殺されるという衝撃的な豊田商事事件がキッカケで悪徳商法が社会問題化して、当時の通産省が、ブラックマーケット駆除対策として、公設の先物取引所を創設して、天下り先をひとつ確保した、という経緯があります。それゆえ、創設期から、まず監督ありき、で自由な売買を促進するという意図が見られませんでした。対して、シカゴの先物取引所では、商品会社のトップたちが取引所のトップになっています。日本との違いが鮮明です。
なお、今朝もアジア時間帯で1980ドルまで買われ、2000ドル視野です。今日の日経朝刊3面に金史上最高値更新の記事が載っています。私は、投機相場に警鐘を発するコメントです。もはや未体験の領域でヘッジファンドが空中戦という様相。理屈で説明できる相場ではありません。