パウエル氏とムニューシン氏、「社会的距離」保てるか
昨日本欄で予告した19日の上院委員会では、パウエルFRB議長とムニューシン財務長官がリモート形式ながら同時に議員たちの質問に答えるという珍しい光景が繰り広げられた。
特に市場が注目したのは、FRBが民間企業に融資するという異例の支援策だ。焦げ付きなどの損失は財務省が負担するという仕組みである。中央銀行と財務省が有事対応として連携する。総額6000億ドルの規模だが、未だ一件も実行されていない。「FRB内で準備中だが今月内にも開始」とパウエル氏は説明した。市場は、この新融資制度を既に「追加緩和」として織り込んでいるので、発表通りの実行を確認したかたちとなった。
更に、財務省と中央銀行の連携は、「財政ファイナンス」を想起させる。巨額の対コロナ財政支援を賄うために財務省が増発する国債をFRBが買い取る過程で、一定の財政規律が維持されるのか。財務長官と中央銀行トップのソーシャル・ディスタンスが近すぎると、マーケットはざわつく。
現状では、米国債の安全資産としての需要は依然根強い。米国債入札も滞りなく消化されている。米国債利回りは歴史的低水準に下落した状態が続いている。とはいえ、最低でも3兆ドル規模の財政支援に加え、今後の追加的措置として更に3兆ドルの上積みが想定されている。結果的に、FRBの国債保有が激増して、資産規模が10兆ドル近くにまで膨張する可能性が強まっている。19日の議会証言で、パウエル氏は「FRB資産規模はいずれ縮小する」と語った。しかし、市場にはパウエル議長が就任直後、FRB資産圧縮を予定通り進めると語り、市場がショック症状を引き起こした事例が鮮明に記憶として残っている。
当面は、有事対応としてパウエル議長が「何でもやる」と明言したことでマーケットは安堵しているが、いずれ「後始末」の懸念は避けて通れない。
量的緩和は入口より出口のほうが遥かに難しい。
なお、米モデルナ社のワクチン開発が注目されたが、19日には医療関係メディアSTATが、このワクチンについて「現時点では有効か否か判断できる情報が少なすぎる。開示された情報は、言葉であり、データではない。」と複数の専門家の意見を引用して懐疑的見解を示したことで、期待感が一気に萎んだ。NY株価は、この報道でダウが一気に300ドルほど急落。金は1740から1750ドルを早くも回復している。買い意欲は衰えず、底堅い。
なお、ドル円は若干円安ドル高方向に振れたが、総合的なドルインデックスは100の大台を割り込みドル安傾向だ。こういうときは、ドル建て金価格も上がり、円建て金価格も円安により上がることになる。