例えて言えば、粗大ゴミを料金払って回収してもらうような話です。
原油価格が暴落する過程で、「5月頃にはコロナも原油も回復するだろう」と読んだ投機筋は、4月に受け渡しの条件で例えば1バレル30ドルで原油先物を買っていました。
そころが、目論見は外れ、原油先物価格は10ドル台にまで暴落してしまいました。そして日本時間今日が、約束の原油受け渡し日なのです。30ドルも払って買い受ける原油は、金と異なり、液体でかさばるし、引火するし、実際に買い受けても、そのあとが難儀なことです。特に、今は、原油が世界中で過剰供給の状況ですから、米国内の原油保管施設は既に満杯。海上タンカーも満杯。要は、置く場所がないのです。投機筋は焦りました。
大量の原油を保有することになったら、大変だ。そこで、この先物買い契約を誰かに売りたい。といっても、受け渡し日が翌日に迫った先物買い契約など、誰が引き受けてくれるでしょうか。
そこで、こうなったら、代金を払ってくれなくてもいい。自らが代金を払うから、買ってくれる人を探す!ということになったのです。買い手から見れば、原油を購入したうえに、おカネまで貰えるという話です。それでも、大量の原油を購入・保有する手段を持つ人は居ません。一時はマイナス36ドル、つまり1バレル36ドル払うから買い受けてくれ、という極限状態にまで行って、ようやくマイナス原油相場劇は終わりました。
先物取引のリスクが露わになった現象でした。
今回は、先物で原油を買った人の悲劇でしたが、原油を保有していない人が原油を売るというケースも怖い事例になります。いわゆる「空売り」です。約定の日には、きっちり原油の現物を受け渡さねばなりません。そのとき、原油が下がってくれていれば良いのですが、急騰していると、大損してでも、先物で売った契約を買い戻さねばなりません。相場用語で「締め上げ」(ショート・スクイーズ)と言います。
このように、先物で買っても売っても、とんでもないリスクを負うことになるのです。もちろん、目論見が当たれば大儲けですけどね。
マクロ的視点では、原油市場の生産過剰と、コロナウイルスによる原油需要の激減が露わになったことによる原油価格暴落の実態が計らずも明るみに出たのです。
私が先物関係とは明確に一線を画している理由も分るでしょう。
なお、金がマイナス価格はあり得ませんね。希少性による独自の価値を維持して、かさばらないので、買い受けて保管場所がないという事態は考えられないからです。有史以来採掘された金の総量が50メートル水泳プール4杯分ですからね。原油だったら、プール4杯分くらいの量は普通にタンカーで運べる範囲でしょう。
マイナス金利にマイナス原油価格。
マイナス金利は量的緩和でばら撒かれたマネーの借り手が現れず、民間の銀行は日銀に預けっぱなしにする。でも日銀は、民間銀行に対して、せっかく刷ったおカネを民間企業に貸し出せ、と迫ります。日銀に預けっぱなしなら年率0.1%の金利を払え、というのです。
おカネも原油も過剰供給。金の「刷れない」希少価値が認められるのも、このような時代の流れでしょう。
本当に昨今はびっくりポンの連続です。