コロナショックのような異常な現象が生じると、経済・投資の世界でも、思わぬ犠牲者が出るもの。
「虎の子の退職金を投資信託につぎ込み、大損している。悔しい。なんとか、取り戻したい。どうすればいいのか途方に暮れている」
個人投資家たちからは悲鳴に近い声が聞こえてくる。
特に、「リスク限定型投資信託」という名前で販売された投信に退職金をつぎ込んだ人たちの事例は悲惨だ。
そもそも「リスク限定型」とは、例えば、基準価格が10%下がると、その時点で、自動的に償還される。
つまり、最悪でも10%以上の損失は被らない、というセールストークだ。
これが退職金運用などの慎重派には受けた。
この2月にも、同型の投信が発売された。
ところが、その直後にコロナショックで発売後1か月も経たないうちに10%の下限を超え、償還されてしまったのだ。
アッという間に虎の子の退職金の1割が蒸発した。これはショックであろう。
しかも、その後、株価は反騰しているのだから、待てば損せずに済んだはず。
でも、商品設計を理解して買ったのだからと理屈では分かっていても、心情的に納得できない。
この事例をマクロ的視点で見れば、こうなる。
視界不良のコロナショックのなかで、ただ一つ確かなことは、世界中で誰一人としてコロナウイルスの先行きを見通せないことだ。
その中で、株式を売買しているのは海千山千のヘッジファンドたち。
そこに、のこのこ、退職金の多くを失った日本人個人投資家が参入してくれば、それこそ「飛んで火に入るなんとやら」である。
困ったことに、外出自粛ゆえ、時間を持て余し、ネットで様々な投資情報をピックアップしている。
良心的な情報から、あきらかに怪しいネタまで、並列にネット画面に表示されると、判断が出来ていない。
特に生産部門に長く勤務していた人たちは、マネーとは異質の世界にいたので、今の異常な相場が孕むリスクを実感として感じていない。
それでも、「なんとか損失を取り戻さないと老後の生活設計を練り直さえねばならない」と焦る。
非常事態宣言下の国の危うい景色である。
こういう苦い体験をしてきた人たちが、現物の金を手にすると、一瞬言葉を失い、「こ、こ、これが、真の価値だ!」と心の中で叫ぶものだ。
金の本当の価値が直感的に分かる人には、苦い投資体験を持つ人が少なくないのだ。