コロナショックで、ドル資金が世界的に足りなくなりました。いつまでこういう異常な状態が続くのか分からず、そもそも新型ウイルスの正体も分からず。その間、モノとヒトの流れは分断される。このような想定外の状況に置かれると、ドルをとにかく多めに手元に置いておこう、という自己防衛心理が世界的に顕在化したのです。ドル資金を調達するためには、多少のプレミアムを払っても構わないというのです。ドルの発行元FRBも、いくらでも必要なドルは供給しますよ、という態勢を敷きました。

いざというときの決済手段としては世界的に通用する米ドルが選好されるのですね。

では有事の金はどうなのでしょうか。

金は、それ自体でモノが買えるわけではありません。しかし、長期的に保有する資産としてみれば、紙幣のドルより現物の金のほうがはるかに頼りになりますよね。だからこそ、外貨準備として大量の金が中央銀行に保有されているわけです。ひらたくいえば「紙くずにはならない」無国籍通貨ということになります。いっぽうで、ドルはさすがに紙くずになることはないでしょうが、印刷された額面の実質的価値が、国の信用が落ちると、急激に下がってしまいます。特にトランプ大統領の時代になり、ドルの信頼性が揺らいでいます。

かくして、フローで見ればドル、ストックとしてみれば「金」に軍配が上がります。

有事のドルか有事の金か、ではなく、有事のドルも有事の金も必要ということでしょう。

さて足元の国際金価格は1,600ドルを下回る水準で推移しています。1,700ドルを見たので「下がった」と感じますが、昨年の価格水準からは随分と切り上がってきました。

あまり難しく考えずに(どうもやたらに理屈っぽい人も少なくないのですが)、コロナショックのような思いもしなかった危機が人類を直撃する時代だからこそ、金を資産として保有する意味があるのだと考えるべきです。

最後にエピソードをひとつ。知り合いの著名アナリストが、見事な世界経済についての論文を私に送ってきました。さすがーーと思って読んでいたら、最後に一言「それで、私はどうすればよいのでしょうか。ご教示ください」だと(笑)実態は、そんなものですよ。