いま、ウォール街で最も「不気味」に思われているのが債券市場だ。
米国債市場といえば、世界で最も流動性豊富なマーケットゆえ、米国債は安全資産とされた。
「質への逃避」と言われたが、「流動性への逃避」でもあった。
コロナショック勃発後は、米国債へのマネー一極集中が加速。
米10年債利回りは一時は過去最低の0.3%台まで下落していた。
それが18日には1.06%まで急騰。安全資産のはずの米国債が売り込まれた。
とはいえ、恐怖指数VIXは75とリーマンショック時の水準に接近中だ。
更に18日の米2年債利回りは0.49%。10年債と比較すれば0.57%もの「順イールド」だ。景気後退の兆しとされた長短金利逆転現象は吹っ飛んだ。


とはいえ、米国景気後退リスクは日々高まっている。
この債券市場の異変の理由は「米国債市場の流動性不足」にある。
米国債市場といえば、世界で最も流動性豊富なマーケットゆえ、米国債は安全資産とされた。
「質への逃避」と言われたが、現場では「流動性への逃避」との感覚があった。
「いつでも売り手、買い手が存在する」という安心感があったからだ。
ところが、その「流動性」があやしくなってきた。
欧米市場が異変に気付いたのは2月11日。
米国株の「弱気相場入り」が宣言され「リーマンショック後11年続いた米国株長期上昇相場の終焉」が意識された日である。
その当日に「安全資産」の米国債は売られ利回りは0.8%台まで上昇した。「謎の金利上昇」と気味悪がられた。
そのとき、米国債市場の現場では、マーケットメーカー(常に売値と買値を提示して売買の潤滑油となる金融機関やディーラーたち)の売値買値の差(スプレッド)が異常に大きく開いてきていた。
米国債市場の参加者として売買注文を繋いでいた大手金融機関が、コロナショックによりリスク管理を厳格化して、市場での売買を実質的に回避し始めたのだ。
実質的には撤退である。このマーケットメーカーが減ると、代わって登場するのがヘッジファンドだ。彼らは、投機的短期売買で米国債市場を荒らす。
米国債利回りの価格変動が一気に高まり、米国債は一気に「リスク資産」に変身する。
こうなると、長期保有の年金基金や政府系ファンドも米国債運用配分を減らす。負の連鎖である。
FRBが量的緩和再開を発表したことも債券市場の不安感を煽る結果になっている。
購入される国債も償還期を広げるとの方針だが、詳細は公表されていない。

「安全資産の異変」は金市場にも及んでいる。
金価格は一時1,700ドルの大台を突破する勢いであったが、1,400ドル台まで急落。
昨晩は1,530ドル台まで戻した。
株の信用取引をしていた投資家が追加証拠金支払いを迫られ、手持ちの金の換金売りに走った。
更に、株式の損失を金の益出し売りで補填する動きも顕在化した。
これはリーマンショック直後にも見られた現象ゆえ、市場内には既視感がある。
有事の金は「買い」ではなく「有事に売って凌ぐ」ものなのだ。
かくして、安全資産無き市場内では、行く先を失ったマネーが徘徊している。
現金で様子見の事例が多い。
とはいえ、運用手数料2%、運用益の20%という報酬により成り立つヘッジファンドは、いつまでも現金では解約が増えるだけだ。
既に、カリスマ投資家レイ・ダリオ氏率いる世界最大のヘッジファンドであるブリッジウォーターがコロナショックの影響でマイナス20%の損失を出した。
フィナンシャルタイムズの取材に対しても「ウイルス対応が分からず、運用を動かさなかった。結果論だが、全てのリスクをカットすべきであった」と珍しく弱気の発言である。
同氏は金に入れ込んでいて、かねてから「これからは金だ」と推奨していた。影響力ある人物ゆえ、彼の推奨は欧米個人投資家の金買いを刺激したことは間違いない。
それゆえ、大きな損失を公表した後も「金は2,000ドルになる。金に賭ける」と公言して憚らない。