28日NY市場でVIX指数は瞬間的に49まで急騰後、パウエルFRB議長の利下げ示唆により40まで反落して引けた。40の大台を超えると、変動幅も増幅する。今週も乱高下が繰り返されそうだ。
この49という数字を過去の事例と比較してみた。
リーマンショック 89
NY同時多発テロ 49
アジア経済危機 48
ギリシャ危機 46
したがって、リーマンショック以下だが、ギリシャ危機以上、ということになる。歴史に残る経済危機と言っても過言ではあるまい。
週末には2月中国PMIが製造業35.7、サービス業29.6という惨憺たる経済統計が発表された。予想されたこととはいえ、過去最低の水準であり、市場にはショッキングな数字であった。
いっぽう、米国ではトランプ大統領がコロナウイルスに特化した臨時記者会見に臨んだ。東京市場の視点では、日本へも渡航規制が課せられる可能性があった。外電もホワイトハウス筋の談話として「日本も対象の可能性」と報道していた。しかし、CDCの渡航警告のレベルは韓国・イタリアが3に対して、日本は2、ということで、土壇場で回避されたようだ。
記者会見では、3月3日スーパーチューズデーを視野の政治色強い発言が目立った。「米国のリスクは低い」を連呼。しかし、記者会見後に、米国で初のコロナウイルスによる死者が確認された。ワシントン州では施設での集団感染事例も発生している。検査キット不足も問題化しており、米国内の感染状況は未だに「闇の中」である。市場は、その規模をこれから織り込むことになる。
コロナウイルス対応チームの司令官に任命されたペンス副大統領も、週末、主要テレビ局に出演した。「トランプ大統領の強い指導力のもと、対策は進んでいる」と語るのだが、終息の見通しなど肝心なところは、曖昧だ。
世界のコロナウイルス拡大は、アフリカ中部初のナイジェリア、カリビア海のドミニカ共和国まで達している。
筆者が懸念するのは、イランだ。死亡率が異常に高い。経済制裁の影響で医療関連薬品・機材などが不足しているのだ。週末には、隣国アフガニスタンでタリバンと米政府が和平で合意したが、国境を接するイランに近い地域でコロナウイルスが疑われる事例が発生している。いずれもイランへの渡航歴がある。イラン国内には推定2百万人規模ともいわれるアフガン難民がいるので、国境検査を強化しても、アフガンへのコロナ拡大が懸念される。依然、内政不安定の国ゆえ、アフガン経由で感染者集団が近隣諸国に拡散するシナリオも現実味が増す。
このような世界的コロナ感染拡大が進行するなかで、主要国中央銀行による協調声明発表がNY市場では期待を込めて語られている。FRBパウエル議長の追加緩和声明に歩調を合わせる如く、本日は日銀黒田総裁が「緊急資金供給の準備あり」と異例の談話を発表した。
株価は反発中だ。景気が悪い経済統計が出ると、株式市場では、政策発動期待で買われる、所謂「悪いニュースは良いニュース」状態になった。上海市場でも今日は民間の財新が出す製造業PMIが発表された。これがまた事前予測45.7に対して40.3と大幅悪化。そこで中国政府の支援策を期待して中国株も反発。そして金価格はといえば、1595ドル前後まで反騰している。これはこれで株と金の同時高という昨年見慣れた風景。金は下げ過ぎに対する反動。
なお、FRBの利下げに関しては、年前半に0.5%一回、0.25%一回で計0.75%を見込む予測も出始めた。外為市場では金利差要因による円高がジワリ進行中だ。
とはいえ、新型ウイルス退治に、金融政策効果は限定的である。まずは、旅行・小売業界など最も影響を受けるセクターに対する財政支援措置が喫緊の課題となろう。中期的にはワクチン開発が最も重要だが、CDCが「来年には間に合う」と語る。年内の商品化はほぼ不可能という状況だ。米国では、これから感染者数増加発表が必至の状況ゆえ、NY市場では、終息は夏以降との見方が台頭している。更に、仮に終息宣言を急いでも、その後、潜伏ウイルス再増殖の事例が一件でも出れば、市場鎮静化も振り出しに戻る。
東京五輪開催の可能性についても、欧米市場で話題になっている。仮に5月までに終息しても、風評が残るリスクが指摘される。消毒された会場への選手団派遣をためらう国が出てきても不思議はない。「来年への延期」説には支持が多い。
このような市場環境で、マネーの流れは米国債一極集中傾向が続いている。既に1.1%台まで続落。もしパンデミック化すれば、量的緩和再開も視野に入る。もう一つの安全資産である金は28日に1640ドル台から1570ドル台まで急落した。これはリーマンショック時と全く同じ現象だ。株価急落によりマージンコールを強いられた投資家たちが、益出しの金売りで現金化を急ぐ現象だ。本当の危機のときは、有事の金は「売り」なのだ。但し、この換金売りが一巡すると、リーマンショックのときは金が反騰。その当時として初の4桁1000ドル台に乗せたのである。
東京市場では、日経平均2万割れが試される段階に来た。海外ヘッジファンドに揺さぶられる状況が続きそうだ。超短期筋のCTA(コモディティー・トレーディング・アドバイザー)は売りのモメンタムに乗り2万円割れを目指す。対して、中期的投資スタンスのグローバル・マクロ系ヘッジファンドは2万円割れを中期的買いの水準と見る傾向が強い。海外投資家の売買動向も短期マネーと中長期マネーの見極めが肝要であろう。
なお、添付写真は、土曜日BSテレ東、日経プラス10サタデーにて。