「パウエルさん、あなたは量的緩和ではないと仰るがFRBはこの5か月で3900億ドルもの短期国債を購入して、バランスシートを拡大させてきた。多くの市場関係者はこれを量的緩和と見なし、株価上昇要因と解釈している。マーケットの懸念は、この量的緩和の如きプログラムが縮小されると、バーナンキ時代に起こった市場大混乱が誘発される可能性だ。」

29日FOMC後のパウエル議長記者会見では、市場が今回最も知りたい事を単刀直入に突いた質問が飛び出した。

NYレポ市場(銀行間で資金を融通する短期金融市場)が流動性不足傾向に陥り短期金利が暴れる傾向に対して、FRBが出した助け舟が「短期国債購入」だ。購入対象が長期国債ではないので、これはあくまで中央銀行による流動性供給オペとの説明が繰り返された。今後の予定も、4月は継続するが4-6月期には徐々に縮小も検討されよう、と明示された。

しかし、これをステルス量的緩和と見て米株最高値圏でも株を買い続けてきた投資家の心中は穏やかではない。バーナンキ時代に罹った「量的緩和依存症」がぶり返している。

29日のNYダウも、アップル好決算を囃し、一時は150ドル超急騰したが、パウエル記者会見の間に下げ足を速め、結局11ドル高で引けた。

パウエル議長が、新型肺炎を、短期的には「かなりの」不透明要因と語ったことも、投資家心理を冷やした。

いっぽうで、インフレ率2%目標について、2%は「上限ではない」とも語り、オーバーシュートしても緩和継続の姿勢を明確にしている。しかし将来のインフレ期待を映す米10年債利回りは1.6%を割り込み1.58%まで下落している。政策金利と相関する米3か月国債の利回りは1.55%と動かず、結果的に、長短金利差が再びジリジリ縮小してきた。米債券市場はFRBに「不信任投票」を投じている。

「無風」とされた今回のFOMCだが、緩和継続を素直に歓迎できない市場の複雑な思いが露わになった。

エスカレートする新型肺炎に関しても、悲観的予測が出始めた。ソシエテジェネラルは世界の株価が10%下落するシナリオを発表している。中国経済成長も6%をかなり割り込む見方が台頭してきた。SARSが勃発した2003年に比し、中国の経済規模は約8倍に膨らんでいる。パウエル議長も、中国、近隣諸国、欧州への影響を注視する一方で、米国経済は内需主導型ゆえ相対的耐性が強いことを示唆した。FOMC内での議論の対象も、関税から新型肺炎にシフトしていることが窺える。

市場でも今年は「当面」利下げ無しの予測が支配的であった。しかし、新型肺炎の影響が米国経済にまで本格的に拡大すると、利下げとFRBバランスシート拡大継続の可能性が意識されよう。

12月FOMC後の僅か一か月で市場環境は激変した。米国イラン衝突、そしてコロナウイルス発生。米中通商第一段階合意と英国EU離脱合意も危うさが残る妥協だ。2019年に3回実施したFRBの「保険的利下げ」は結果的に先見性があったと評価されそうだ。

市場はその保険の期限切れに備え身構えている。

NY金は1580ドル台に最接近。高値圏でじり高傾向が続く。

この金価格高騰は、2020年の金融政策不安を映す現象とも言えよう。ステルス量的緩和も、株と金の同時高騰という過剰流動性相場を誘発している要因として無視できない。

 

今日の写真は、本店京都銀閣寺近くのお茶席仕出し老舗の「三友居」続き。料理もさることながら、お茶席で使われるので、器も諸々味わい深い。

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