NY株価が最高値更新を続ける過程で、金も高騰が継続している。
「市況の法則」に反する現象だ。長期的には株と金の逆相関は変わらないが、2020年に関しては、株・金同時高の可能性が強まっている。
NY市場では、多くの投資家が高値警戒感を抱きつつ、「自分だけバスに乗り遅れる」不安感から株買いに動いている。
そこで、ヘッジとして金も買っておく、という発想になる。
その結果、株が新高値を更新すればするほど、金買いも増える傾向が強まる。
機関投資家も、株のポジションが毀損しているときには、金という新たな投資対象まで考える心理的余裕がない。
しかし、株高が続くと、金などへ分散投資も考慮するようになるものだ。
同様の理由で、ウォール街では「エキゾチック」とされる日本株への注目度も強まっている。
世界的金融緩和傾向も重要な金価格上昇要因だ。特にマイナス金利の深堀りも金には追い風となる。
金はインカムを生まないことが最大の欠点であったが、ゼロ・イールドでもマイナスよりマシだ。


40年以上マーケットと付き合ってきた筆者だが、金が「ハイイールド」とまで呼ばれる日が来ようとは夢にも思わなかった。
飽くなきイールドの追求を日々続ける欧米年金基金も、金ETFの購入を増やしてきた。
そもそも金ETFは元カルパース(全米最大の公的年金)CEOジェームス・バートン氏が、バイサイドの年金の立場から開発・上場した金投資商品である。
更に、基軸通貨ドルの信認低下が、ドルの代替通貨としての金の存在感を高めている。
イングランド銀行のカーニー総裁が「デジタル合成通貨」を提唱したことも、ドル覇権への不安感を映す。
ロバート・マンデル・コロンビア大学教授は、「最適通貨圏構想」を提唱して「ユーロ」という地域統一通貨に理論的根拠を与えた。
地域ごとの基軸通貨構想だが、イスラム圏では「金」が決済通貨となる可能性もある。
マハティール元マレーシア首相が「ゴールド・ディナール」という金に基づく貿易決済通貨の創設をイスラム圏諸国に呼び掛けたこともある。
2019年は、新興国の中央銀行が外貨準備としての金購入に動いたことが話題になった。その総量は700トンを超えると見られる。
年間生産量が3,300トンほどの市場ゆえ、そのインパクトは大きい。
2020年は、米国大統領選挙が米国国内の断裂を露わにする可能性が強く、外貨準備の構成通貨としてのドル減らし・金準備増強を更に誘発しそうだ。
いっぽう、金をコモディティの視点で俯瞰すれば、1,500ドルを超す高値圏では、需給が緩む。
ムンバイ・ドバイ・上海の三大金現物市場では高値圏での買い控え傾向が顕著だ。
更に、1,500ドルを超えると金のリサイクル還流が級数的に増加する。
金需給統計を見ても、金価格が1,100ドル台まで沈んだ年は年間リサイクル還流量(二次的供給源と言われる)が1,100トン前後であったが、1,500ドルを超えた年には1,700トン以上に急増している。
この年間600トン規模の差もインパクトは大きい。
但し、ヘッジファンドのごときまとまった売買ではないので地味で目立たない。
しかし、通年で見ると、その規模は大きく、市場へはボディブローのごとくジワリを効くのだ。
プロの視点では、ムンバイの現地金価格と世界標準のロンドン金価格のスプレッド(値差)が注目される。
2019年にNY金が1,560ドルの高値をつけたときは、需給がジャブジャブになりムンバイ価格がロンドンより1トロイオンス60ドル以上もディスカウント(割安)になった。
これは売りのシグナルなのだ。
本欄でも「売りサイン点灯」と書いた。
その後、1,450ドル台まで急落すると、このスプレッドは若干ながらもプレミアムに転じた。
これは「買いのサイン」である。


最後に、2020年のNY金価格予測だが、下値は1,400ドル、上値は1,650ドルと見ている。
基本的に先物・ETF主導の上げ相場となろうが、先述の需給要因と膨張した先物買いポジションの手仕舞いが重なると、1,400ドルまで急落の可能性がある。
振り返れば、2019年初には1,350ドルの壁が意識されていたことを思えば、2020年は高値圏で推移すると思われる。