サウジアラビア政府が、イラクからの原油緊急輸入を検討との報道が19日の国際原油市場に流れ、原油価格が急騰する局面があった。
原油施設爆破後、早期供給能力回復を明示して、市場に安堵感を与えた直後ゆえ、マーケット内部では、原油供給懸念が蒸し返されている。
原油輸出先顧客への供給義務を果たすために、国内向け原油供給も削減して、信頼維持を優先する方針とされる。具体的にはイラクの国営石油会社の名前が候補として挙がっている。イラク動乱時には、サウジの余剰生産能力が発揮され、イラクからの供給減を埋め合わせた経緯もある。今や世界最大の原油生産国とトランプ大統領も自慢げに語るほどの米国からの補完的供給増の可能性も指摘される。
いっぽう、サウジアラビア国営石油会社アラムコの「史上最大」となるIPOの件については、今回の爆破事件で、延期の観測が市場には流れていた。しかし、ここでも、国としての面子を保つためには、大富豪の王族たちに、アラムコ株の一部を引き受けさせる、との報道も相次いできた。「腐敗」疑惑で豪華ホテル内に監禁され、財産を凍結された富豪王族たちの「愛国心」を試すごとき動きとされる。
かくして、なりふり構わぬサウジアラビア政府、より具体的には、ムハンマド皇太子の姿勢に市場の注目が集まる。
そもそも、イスタンブールでのサウジ人記者殺害事件に、同皇太子が直接関与との疑惑は未だ晴れていない。しかし、米国大手投資銀行は、超大型IPO案件の幹事獲得の座を巡り熾烈な先取り合戦を舞台裏で繰り広げてきた。
サウジアラビア側も、アラムコIPOは脱石油戦略の長期国家戦略を資金的に賄うため必須の案件で、失敗すれば、ムハンマド皇太子の権勢を揺るがしかねない状況にある。
まずは、国内株式市場でアラムコ上場を達成した後、海外上場を目指す計画で、その候補先として東証の名前が挙がっており、日本市場にとっても他人事ではない。東証の外国株売買は極めて低調な状況が続いており、日本国内では冷めた見方も多いが、ウオール街では、注目の案件だ。ロンドン証取と香港証取が当初は候補として挙がっていたが、ブレグジットと香港紛争を理由に、落選との見通しが強まり、消去法で東証が浮上した経緯がある。その落ちたとされる両取引所に買収合併の話が持ち上がったが、結局、折り合わず、との結末となっていた。
サウジアラビアを巡る原油とマネーの流れは、時代の流れを象徴するごとき展開となってきた。
さて、今日は、「保険」の話題。
金と保険は、家庭内有事に備え、寄らば大樹、のごとき発想を共有するので、例えば、機関投資家で金を買うのは保険会社が多い。
その保険会社のなかで、特に、最近は生命保険会社に関する問題点が指摘されている。
その典型が、中小企業向け「経営者保険」だ。オーナー社長が死亡した場合に保険金が支払われるので、零細企業の社長死亡リスクを軽減させる意味は理解できる。
しかし、問題は、この保険が、そのような「有事の備え」としてではなく、「節税狙い」に販売されたことだ。
企業が保険料を払うと全額を損金算入できる。更に、中途解約すると異常に高額に設定された金額が戻ってくる。企業側としては、保険料を払って納税額を抑えたうえに、解約すれば保険料の殆どが回収できてしまう。販売側も、それをセールスポイントに営業する事例が多かった。節税指南的な生命保険会社のモラルが問われる。国税庁も金融庁も対策に動き始めている。
もう一つの問題商品が、外貨建て保険だ。
為替差損が生じるリスクが十分に説明されているか否かが問われている。
これに関しては、リスク開示は当然だが、筆者は異論がある。
結論から言えば、円のリスク開示はどうなの?ということだ。
私は、自ら、財産の半分はドル建て資産と語って憚らないほどの長期(短期ではないよ)円安論者。少子高齢化で移民にも拒否症状が強い国の稼ぐ力は将来減ってゆくので、円という通貨は減価して当然と見ている。量的緩和にしても、GDPが日本の3倍近い米国のFRBと日銀がばらまいたカネがほぼ同額という事実も空恐ろしい。知り合いを見ても、日銀や財務省出身のOBたちが、虎の子の退職金を円では持ちたがらないという現象も不気味だ。
例えていえば、ルーレットでチップを置くところは、ドル、ユーロ等々、いくらでもあるのに、日本人だけは、円というところに、ひたすらチップを膨大に積み上げ、「これで安心。リスクなし」と安堵している。私のプロの視点では、円だけというほうが、はるかにリスキーと映る。島国で「母国回帰」傾向が強い民族性なのかもしれない。
まして、保険とは、一般的に10年後、20年後に備えるものだ。そんな将来の日本が、世界の中で、唯一安心と信じるのは勝手だが楽観的に過ぎる、と私は思う。
外貨建て商品に関しては、通貨リスクを「円」も含め開示すべきだというのが私の持論で、なおかつ、自身で実践しているわけだ。