「連日の市場大変動。最も注目する指標はなにか」
ウォール街のヘッジファンドへの問いかけだ。
最も多かった答えは「米10年債とドル円」。
「VIX」を予想していた筆者には意外な答えであった。
円も「出世」したものだ。
欧米の外為市場で最も取引量が多い通貨ペアはドルユーロである。
しかし、現場では「円は安全通貨」としての認識が広まり、市場の不安感を計る指標として定着しているのだ。
その円は104円台から106円台に急反落。
市場のリスクオフ・ムードがひとまず後退している。
その理由は、「トランプ大統領の変心」に尽きる。


先週金曜日には「敵」と語った習近平氏を、昨日G7後の記者会見では「素晴らしい人物」と持ち上げた。
「電話で話した」とも語ったので、すわ「緊急トップ電話会談か」と市場も色めきたったが、中国側は否定。
トランプ氏も「ムニューシン財務長官が経常的に連絡をとっている」と述べ、とにかく両国のコミュニケーションは継続していることを強調した。
「貿易交渉は米国優勢で、中国は取り引きしたがっている」とも語っている。
米中悪化を予想して株空売りに走った投機筋は慌てて買戻し。
円の投機買いに動いた通貨投機筋は売り戻しを強いられた。
一般投資家は、トランプ氏の真意を測りかね、模様眺めを決め込んでいる。
トランプ大統領に心境の変化の兆しが見えたのは、週末に記者団から「考え直す気はないのか」と聞かれたとき「誰でも考え直すことはある」と答えたときだ。
しかし、ホワイトハウスはすかさず「あの発言は、もっと追加関税を高く設定すべきであった、との意味だ」との釈明を発表していた。


とはいえ、米中歩み寄り姿勢には、トランプ氏も習近平氏も、貿易戦争は早期に片付けたいとの本音が透ける。
トランプ氏は、貿易戦争に手間取る印象を有権者に与えたくない。
習近平氏は、中国経済悪化に歯止めをかけねばならない。
長老たちとの北戴河会議でも、早期決着せよと釘をさされたことは想像に難くない。
長老たちが最も嫌うのは失業増から生じる社会不安だ。
人民元相場も今のスピードで急落が続けば、資本逃避や国内輸入物価上昇など悪影響が優るは必定だ。
市場はそこまで読んで、トランプ氏の変心を歓迎しているわけだ。
とはいえ、債券市場は、まだ信じきれないように見える。
長短金利が再度逆転したからだ。
株式市場は楽観論で育ち、債券市場は悲観論で育つもの。
とはいえ、不安心理を測る「ドル円」が円安方向に振れていることが、NY市場でも安堵感を醸成している。


NY金の価格変動も激しくなっている。
添付のグラフをご覧いただきたい。

 

金価格グラフ

まず、青線が先週金曜日。ジャクソンホールでのパウエル講演前には1,490ドル台まで沈んでいた。
それが、トランプ氏の報復報復関税発表で一気に1,530ドル近傍まで急反発。
対中追加関税の詳細が金曜のNY引け後に発表されたので、赤色の日曜には時間外だが1,550ドル突破。
しかし、緑色の昨日月曜日は、米中対話再開で、1,520ドル台まで下落した。
私の見解は1,500ドル以上は警戒水域。日経ビジネス取材でも、そう話した。↓


https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00002/082200623/


特にドバイ、ムンバイ、上海の主要現物市場で現地価格がロンドン世界標準価格に比し20ドル以上ディスカウント(割安)になっていることが気に入らない。
要は、東京も然りだが、貴金属店の店頭は新規買いより売戻しのほうが多いから、金市場の需給はじゃぶじゃぶだぶついているのだ。
それでも上がるのはNY先物主導だから。
プロの視点では中期的だが売りサインが点灯している。
短期では未だヘッジファンドの投機買いが優勢だが。