21日のドイツ30年債入札で、利回りが初のマイナス圏(マイナス0.11%)に沈んだ。
これでドイツ国債は長短全ての限月でマイナスとなった。
30年間、ドイツ政府に0.11%を支払ってでも国債を購入する、という投資行動は、従来の「投資の法則」から見れば、常軌を逸している。
しかし、購入者に30年後の満期まで持ち切る気は更々無い。
いずれECB(欧州中央銀行)が量的緩和を再開すれば、真っ先に買われるのが「安全資産」と見なされるドイツ国債だ。その時点で売却すれば、キャピタル・ゲイン(売買益)を得られる。
「人気商品」ゆえ、前回のECB量的緩和の過程でも、寄合所帯のECBが決める国別国債購入枠のなかで、ドイツ国債がまず「売り切れ」に近い状態になった。
政治的混乱の渦中にあるイタリア国債の利回りも異常だ。
21日には前日の1,37%から1.33%にまで低下したのだ。
イタリア国債については、ECBも安易な購入は憚られる。「救済」と見なされるからだ。
にもかかわらず、イタリア国債は買われた。「債券バブル」の症状が顕著だ。
更に、イタリア国債の利回りが米国債より低いことも異常だ。
イタリア10年債1.33%に対して、米10年債は1.59%。
財政不安の国に10年おカネを貸すにあたり、その金利が米国より安い。
これも従来の「市況の法則」では説明できない。
いずれ米10年債も1%を割り込むとの見方も根強い。
そもそもマーケットで国債利回りは、当該国の財政悪化を示す指標とされ、ギリシャ危機のときも7%が危機ラインとされた。
しかし、その国債が発する警報が、債券市場混乱の中で、かき消されている。
そのギリシャ国債でさえ、遂に2%の大台を割り込み、1.99%まで下落した。
欧州の債券市場では、ソブリンリスク評価の基準ラインがゼロ金利となり、マイナスならば「相対的優良国」、プラスならば「要経過観察国」と線引きされているようだ。
ちなみに、フランス10年債はマイナス0.39%で「合格」。
スペインがプラス0.11%で当落線上にいる。
21日には米国で再び10年債と2年債の利回り格差が0.03%
程度まで縮小して、再び、逆イールド懸念が市場を覆った。
しかし、2回目ともなると、市場は反応薄。一回目の初期的パニックに比し、早くも、逆イールド・ショックを卒業したようだ。
21日に発表された7月FOMC議事録では、FOMC内の亀裂が確認された。
0.5%利下げ主張者もいれば、利下げ反対論者もいる。これほどに意見が割れたFOMCは珍しい。
この7月FOMCの翌日にトランプ大統領が対中10%追加関税を電撃的に発表しているので、総じて、議事録の内容は既に「賞味期限切れ」だ。
しかし、FOMC内の分裂は変わらない。議事録文面からは、パウエル議長がFOMC内の論客に振り回されているイメージが滲む。
イエレン、バーナンキ、グリーンスパン時代とはFRBの景色が変わった。
トランプ氏のパウエル氏個人口撃も日に日に繰り返され、選挙戦では、米国経済減速(あるいは失速)の責任を習近平氏よりパウエル氏に転嫁する本音が透ける。
21日には、パウエル氏をゴルフのイップス病に例えた。
短いパットに神経質になり手が動かなくなる症状を指す。
ここまで侮辱的発言を受けたFRB議長はいない。
更に、トランプ大統領は、いったんぶち上げた減税策を、あっさり撤回した。
またもや朝令暮改。
金融政策の限界が懸念され財政政策へ市場の注目が移りつつある矢先の出来事ゆえ、財政政策の手詰まり感を印象づける結果となった。
こうなると市場のドイツの財政出動期待は益々強まる。
均衡財政が民族的DNAのごとく浸透している国が、果たして、変身できるか。
ドイツ30年国債のマイナス圏突入は、金融政策への過度な依存度の裏返しでもある。
そして、金利を生まない金にとっては強い追い風となる。
いまや、金が「ハイイールド」と言われるほど。
国債買ってマイナス金利払うより、ゼロ金利の金のほうが、金利は相対的に高いことになるのだから。
私も金の世界に長いが、まさか、金がハイイールドと呼ばれる時代が来ようとは夢にも思わなんだ(笑)