以下の原稿は日経マネー新年号「豊島逸夫の世界経済深層真理」に書いたものです。今年もはや4月。改めて、今、読み直してみました。
以下 原稿。
歴史に残る年末年始相場大爆発だった。筆者40年のマーケット生活でも初体験だ。
そもそも、この時期は休暇モードで例年商いが薄いことは当たり前だ。では何故今回、「惨状」ともいえる異常な乱高下を演じたのか。
やはり、この一年でAIプログラム高速度売買が一気に市場内に拡散したことの証左であろう。コンピューターにクリスマスも正月もない。今や、人間さまは、AIの相場観を推し量り解説する役目に回っている。
為替に至っては、クリスマス前の113円から年初104円まで、数日で2019年年間レンジを事前設定してしまった感がある。
特に今回の特徴は「理由なき」乱高下が頻発したこと。大きなイベントがなくして株価・円相場が激動する。日本人は後講釈が好きで得意だから、理由付けに走るが、米国人は肩すくめて「So What?」だから、どうだっていうの?と即現実を受け入れる。起承転結きれいに仕上がったコメントには興味を示さない。対して、日本人は、「理由なし」では納得できない。納得しなければ動かない。米国人そして中国人は納得せずとも動く。これが相場の現実と割り切っている。2019年、日本人投資家も頭でっかち体質を変える努力が必要だろう。
チコちゃんに叱られるのを恐れていてはダメだ。
さて、2019年、筆者が注目するシナリオを挙げてみたい。
まず、FRB「利下げ」の可能性。
アップルショックが示唆することは、米中貿易戦争で米中共倒れリスク。米国経済減速からリセッション入りが濃厚になると、金融政策大転換も絵空事ではなくなる。FRBは、資産圧縮プログラム停止も視野に入る。株式市場にとって、金融緩和はグッドニュース。とはいえ、経済停滞ゆえのシナリオゆえ、素直には喜べない。
なお、イエレン時代には、「FEDには逆らうな」が市場の合言葉であったが、パウエル時代になり「FEDを疑え」と変わってきた。パウエル議長の真意を測りかね株価が揺れる。金融政策不信がキーワードだ。
次に、中国経済荒天なれど好転。
中国経済が本格的に悪化すれば、政府が必ず財政出動・金融緩和で下支えする。中国国民も国が助けてくれることは当たり前と思っている。壮大なモラルハザードだ。債務累積を放置すれば、いつか臨界点を迎えるのは必至だ。3年後か5年後か。それまでは、中国株は生き延びる。執行猶予つき株価上昇だ。
次に、トランプ・リスク。
トランプ大統領は常々、株価を政権の通信簿と位置づけ、株価上昇時は、我が経済政策の結果と胸を張った。しかるに、ひとたび株価が下落に転じるとパウエル議長と下院民主党へ責任転嫁する。とにかく、トランプ大統領にとって株が下がっては困るのだ。大統領執務室にこもりっきりで、経済テレビ画面にくぎ付けとの報道もあった。株が下がると「なぜだ」と側近に説明を求めるという。「あんたにいわれたくない」「とにかくアナタには黙っていて欲しい」が市場の本音だろう。なお、NY株価が下がると、「米中交渉進展。皆がビックリするような結果になるだろう」などと楽観的見通しを語る傾向がある。中国同様に、最後は政権が下支えする。
弾劾シナリオも絶えないが、現実的には難しい。大統領職退任後逮捕の可能性はある。
そして、原油価格。
OPEC内のタガが緩めば、漁夫の利を得るのは価格主導権を握るNY原油先物投機筋だ。原油市場をマクロで見れば、米国・ロシア・サウジが原油世界最大生産国の座を争う構図だ。中国・インドなど新興国の需要減シナリオが市場に最も嫌われる。
なお、ヘッジファンドにとっては、原油暴落が干天の慈雨となった。株での損失を原油空売りで取り戻した事例が少なくない。2019年も投機主導の下げは覚悟せねばなるまい。
中東関連で筆者が懸念するシナリオはサウジ核武装化。イランが核合意を離脱すれば、対抗上、サウジも国内核開発に動くだろう。米国にとっても、サウジは最大の武器輸出国だ。ここはロシアに譲るわけにはゆかない。トランプ政権も、サウジ記者殺害事件を曖昧に風化させ、米国サウジ協調は維持する方針だ。このシナリオが現実化すると、一気にホルムズ海峡が緊迫化して、原油は一転急騰するだろう。
最後に筆者は長期投資主義者だが、今年に限っては、心臓に悪すぎる。各自ヘッジで資産防衛する発想が必要であろう。日経マネーにも、そのテーマの記事を期待する。
以上、原稿終わり。
さてさて、1-3月期が終わってみれば、当たったこともあり、外れたこともあり。
新年のマーケット心理が、この3か月で、どう変わったか。今、読み直すと分かりますね。