以下は、日経マネー先月号に掲載したコラム「豊島逸夫の世界経済深層真理」の原稿です。
「動くな!余計な売買は控えよ!!」
米国のFPたちの最大公約数的なアドバイスだ。
米国人個人投資家たちも、不安に包まれている。空は青空なのに、スモッグで視界が開けない。青空とは米国経済。雇用統計を見ても好調が続く。しかし、米中貿易戦争というスモッグが北京のみならずNYウオール街上空の日光を遮る。
更にFPたちのアドバイスは続く。
「株式市場へのエクスポージャー(露出)をヘッジせよ。保有債券の質を改善せよ(要は高イールド、低品質は避けよということ)。セクター分散せよ。カントリーリスクも考慮しろ。オルタナティブ(代替投資)も考慮せよ。」
まぁ、言いたいことは分かるけどね。言うは易し、行うは難し、なんだよ、と思わず突っ込みたくなる衝動に駆られる。
海千山千のカリスマヘッジファンドでさえ「眠れぬ夜が続いている。家庭内は離婚の危機だ」と、ぼやき、ウオールストリートジャーナル紙に、すっぱ抜かれた。なにやら、スプリング・センテンス並みの騒ぎだ。そのカリスマとはグリーンライト・キャピタルのデビッド・アインホーン氏。イケメンでヘッジファンドにしては珍しく経済テレビにも頻繁に出演してコメントしていた。その常勝(のはず)のファンドが今年1-6月のパフォーマンス、マイナス18.7%に沈む。こともあろうに(まぁ結果論だが)ネットフリックス(同期間107%↑)、アマゾン(45%↑)をショート(売り)。知り合いの米国年金筋によれば、多くの年金基金がこのヘッジファンド(基本的にバリュー主体の運用)に投資していたが、損切り決定には大変な稟議審議が必要ゆえ、解約を躊躇っているらしい。
いっぽうで、中国人個人投資家も呻吟している。
習近平氏の強権指導のもと、巨額債務を軽減すべく投資・金融市場が締め付けられた。「投資にはリスクがある」ということを、少々痛い目をして分からせる作戦が始まった。未だに、中国人個人投資家の間では、投資で損したら、お上が助けてくれるはず、とのモラルハザードが根強く残るからだ。やり玉にあがったのが、理財商品。炭鉱などに投資して年7-8%のリターンを謳う投資商品だ。問題はシャドーバンクが組成して、大手商業銀行が簿外扱いで店頭販売してきたこと。ディスクレ(リスク開示)の文言も説明もないから、買い手の個人投資家は大手銀行組成の商品と思い込んでいる。若手女子行員たちが無邪気にマニュアル通りに売りさばいてゆく現場を、筆者は頻繁に目撃したものだ。そして、お決まりの投資先破綻。さすがにパニック的取り付け騒動を恐れた金融当局が救済してきたが、見せしめ的に、救済せず破綻させる事例も出てきた。大手銀行は当該商品を簿外扱いから簿内にせよと指導された。しかし、社会不安に発展しかねない事態に、当面、理財商品への規制強化の手を緩め、救済を続ける方針に戻っているのが最新の状況だ。なんとも危うい。習近平氏も人の欲までは力で抑え込むことはできないので、もてあまし気味だ。勿論、リスク承知の個人投資家も多い。しかし、リスク耐性が強いはずの個人投資家たちも、米中貿易戦争に揺れる上海株には不安を隠さない。うっかりSNSに不安を書き込むと当局から目を付けられるから慎重だが、ぼやきは伝わってくる。筆者も知り合いの若手行員から「結婚するため中国では必須のマイホーム購入のため蓄えた資金を株式投資に廻した。虎の子をどうしたらよいのか」と悲壮な相談をこっそり受けたことを思い出す。
そして、日本人個人投資家たち。
筆者がツイッター@jefftoshima(フォロアー1万9千人程度)で、日経本紙に載った日銀保有銘柄リストを採録したら、おっさんツイートにしては珍しく800以上のいいねマークが並んだ。特に、ユニクロの日銀保有浮動株比率が80%以上との事実には驚きの書き込みが目立った。当然、クロダさん、これどうするの?という素朴な疑問が湧いている。更に、日経報道で、投信保有者半分以上が損をかかえるとの金融庁調査結果も、やっぱり、という感じの反応だ。「NISAで節税といっても儲かったらの話」との筆者のつぶやきにも、同意の声が。「NISAか兄さんかというほど株に疎い嫁が口座開かず結局一番正解だった」とのぼやきが印象に残る。