トランプ大統領のパウエルFRB議長利上げ路線への「口先介入」が再燃している。外電、欧米経済紙が相次いで、利上げ批判発言を伝えている。メディア・インタビュー、支持者集会、自身のゴルフ場など発言の場は様々だ。
総じて、強い利上げ批判というより、「ぼやき」に近い。自ら任命して、頼りにしているのに、自分のことを聞いてくれない、というニュアンスが滲む。FRBにはもう少し助けてほしい、他の国では緩和しているではないか、という言い回しも伝えられる。
パウエル氏は「チープ・マネー・マン=安いカネ人間」かと思っていた、という表現も使われている。
この時期に再び利上げ牽制発言を繰り返す背景は、やはり中間選挙で劣勢が語られるからであろう。名目賃金が緩やかに伸びても、物価上昇率が上回っている。トランプ経済政策で賃金がなんとか上昇しても、利上げで台無しになる、との懸念が透ける。
一方、ドル長期金利も、ベンチマークとなる米10年債利回りが月初には3%突破していたのに、2.81%まで沈んでしまった。3%の壁はやはり厚い。背景は、トルコ発新興国経済不安。安全資産として米国債が買われている。
投機筋の先物売買ポジションも、金利上昇を当て込んだ米国10年債売りポジションが過去最大級の規模に膨張している。外為関連ではドル買いポジションがやはり最大級の上昇を見せている。米国債は売られ過ぎ、ドルは買われ過ぎの反動が出やすい地合いである。
そこにアトランタ連銀ボルスティック総裁(FOMC投票権あり)が「年3回利上げ説」に言及すると、投機筋にとっては、恰好の巻き戻しのキッカケとなる。
パウエル氏の立場では、トランプ氏牽制発言が相次ぐなかで、仮に9月利上げを見送れば、忽ち「中央銀行、政治的独立放棄」の誹りを受けかねない。
結果的にトランプ氏は自らの発言で9月利上げを固める結果になっているように見える。
筆者が最も気になるのは、トランプ氏がパウエル氏について語るとき「身内」意識を丸出しにすることだ。社長が子飼い幹部の言動を語るごとき印象を受ける。
そもそも中央銀行の政治的独立性を意識する人物であれば、出るはずのない物言いだ。
パウエル氏も持て余す「親分」ぶりである。
なお、注目の米10年債・2年債利回りも長期2.81%、短期2.58%と、その差0.23%にまで縮小してきた。金利トレンドが上昇でも下落でもイールドカーブ平坦化だけは変わらない。新興国経済不安、貿易摩擦問題と長短金利縮小が共振する現象は、市場内で不気味な異音に響く。
なお、金市場から見た「リーマン後10年」の日経記事あり。↓
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO34177830V10C18A8000000/
今日発売の日経マネー連載コラム「豊島逸夫の世界経済深層真理」では「海外マネーの日本回帰、日銀トレード活気づく」と題して書いた。