2日にわたる議会公聴会証言でのパウエル議長発言がドル高を誘発したが、質問者の議員たちとのやりとりが市場の関心を集めている。

特に前任者イエレン氏との言動の差が鮮明だ。

具体例として挙がる単語が「今のところ=for now」の一言。

利上げペースは緩やか、との表現はイエレン氏の常套句であったが、パウエル氏は、そこに「今のところ」という表現を加えたのだ。

「とりあえず」というようなニュアンスがあり、口語的で軽く、およそ中央銀行トップが議会発言で使うような言葉ではない。

しかし、この一言で、ハト派的言い回しが、一転、タカ派的ニュアンスに変わる。

今のところは利上げペース緩やかに、と語られると、市場は、近々ペースが早まると受け止めてしまう。

「今のところ」とは何か月を意味するのか、が議論されている。

わざわざ,for nowの辞書説明を引用する報道もあったほどだ。

FEDウォッチャーには文学部出身の英文解釈能力も求められるようだ。

 

総じて、生粋のエコノミストのイエレン氏は、経済に疎い議員たちには、教え子を諭すかのように丁寧に説明したが、実務家出身のパウエル氏は違う。

言い回しが簡潔で短い。ときに、ぶっきらぼう、との印象さえ与える。

議員からの質問には、時節柄、通商政策、財政政策にからむ事柄もひんぱんに飛び出したが、パウエル氏は、「それを決めるのはあなたでしょう」「その政策ツールを持っているのは貴方でしょう」と切り返したりする。

イエレン氏は、「それはFRBの専管事項ではない」との答えを繰り返したものだ。

イエレン氏はハト派、パウエル氏はタカ派との見方もあるが、そうとも言い切れまい。

数か月後、貿易戦争の影響がマクロ経済指標に表れると、一転して利上げ慎重派に変身するかもしれない。

そのときは、利上げを「当面」継続する、と発言するのだろうか。市場の想像は尽きない。

 

歴史的視点では、バーナンキ元議長が始めた量的緩和という有事対応・非伝統的金融政策の後始末役としてイエレン前FRB議長が登場した。

利上げとFRB資産圧縮を開始して、有事対応からの離脱、金融正常化の道筋をつけた。

この金融正常化を粛々と進め、引き締めサイクルの落としどころを決めることがパウエル新FRB議長の役割であろう。

今や米国金融システムは堅固になったが、パウエル氏は利上げにともなう新興国経済変調リスク、そしてなんといってもトランプリスクと対峙せねばならない。

そもそもトランプ大統領に任命され、記者会見では「ジェイ」とファーストネームで呼ばれ、肩を叩かれ、市場では「FRBの政治的独立性」が危惧されている。

「これがパウエル流」と印象づけることも、広義のフォワード・ガイダンス(将来の政策明示)といえるかもしれない