米株式市場を揺らせたアップルショックの震源はクックCEOの中国名指し減益予測発言だった。そして、日本電産永守会長が中国名指しで一転14%減益を発表した。安川ショックの二の舞か。

そもそも2019年株価予測では、米中貿易戦争の影響度が重要要因とされていた。そのど真ん中を突く永守発言の影響は重くボディーブローの如く効く。

そこに救世主が現れた。17日のNY株式市場に流れた、米中貿易戦争関連観測記事である。

静かだった地合いが、大引け90分ほど前に、いきなりダウ平均200ドル超の急騰。またまたアルゴ売買のいたずらか、と見れば、震源はウオールストリートジャーナル電子版の観測記事だった。ムニューシン財務長官が、対中関税取り下げを提案との消息筋発言を報じている。報道内容では、政権内ライバルの対中強硬派ライトハイザー通商代表が同意したのか定かでない。その後、トランプ大統領への提案はない、との否定声明も出された。二人のライバルを戦わせ、自らが最終決定する、というトランプ流戦術が透ける。今月末に訪米する中国副首相との会談がキーとなりそうだ。

市場の視点では、この観測記事で、瞬間的に空売りの買戻しが集中した。更に、株価要因として米中貿易戦争がいかに強く意識されているか、が改めて露わになった。もし、この記事内容が本当なら、昨今のボラティリティーの高さから推して、ダウ平均が200ドルはおろか500ドルから1000ドルの上げ幅で瞬間急騰しても不思議はなかろう。

17日は、報道後、乱高下して結局ダウ平均が162ドル高で終えた。少なくとも、鎮静化していた地合いに、「喝」を入れた感が残る。

 

ここで注目すべきは、2019年日米企業業績減速傾向であろう。

米企業決算シーズン入りしたが、2019年1-3月期の減益傾向は時間とともに強まっている。モーニングスター社のレポートでは、2018年10月1日時点の決算予測がプラス8.1%だったが、2019年1月1日にはプラス幅が5.3%に縮小。そして直近では3.1%まで下がってきたとされる。

企業業績が「減速」なのか「マイナス圏入り=景気後退」なのか。見方は市場内で割れる。

17日には、1月のフィラデルフィア連銀製造業景気指数が前月9.1から17に改善して好感された。しかし、直近発表の各地区連銀の同指数はいずれも悪化している。NY連銀製造業景気指数(12月)はプラス3.9で前月比マイナス7.6。

ダラス連銀(12月)がマイナス5.1で前月比マイナス22。

カンサスシティ連銀(12月)はプラス3で前月比マイナス12。

リッチモンド連銀(12月)がマイナス8で前月比マイナス22。

ちなみに、この経済統計群はゼロよりプラスなら景気改善とされる。

更に、今週発表されたFEDベージュブックでは、減速を意味するslowという単語が、昨年9月の25回から今回は65回も使われていることが注目されている。

更に、「タカ派中のタカ派」と言われるエスター・ジョージ・カンサスシティー連銀総裁が、「ハト派に変節」したことも、景気減速観測を強める。

今週の決算もシティーグループ、ゴールドマンサックスが結果好調と囃され、ダウ平均も金融株推進により連騰してきた。しかし17日には、お堅いことで知られるモルガンスタンレーの決算が不調で、市場内に失望感を生んだ。気迷い気分が漂う。

マクロ経済面では2019年米GDP成長率が2%から2.5%のレンジで収まり、減速だが軟着陸で景気後退は回避されるとの見通しが目立つ。

しかし、目下の政府一部閉鎖が長引くと、GDPへの影響も避けられない。既に80万人ほどの公務員への給与支払いが滞っている。特に38万人ほどと推定される自宅待機組は、「失業者」にカウントされるので、雇用統計への影響も懸念される。そもそも、政府機関閉鎖のあおりで、小売り統計など主要経済指標発表が延期されている。このままでゆくと、次回FOMCが「データ次第」というものの、そもそもデータ不足のなかで議論を強いられよう。かねてから、パウエルFRB議長は、金融政策運営を「暗闇で手探り」と例えていた。

この視界不良状態で、企業決算は民間ゆえ滞りなく発表されてゆく。

「悪ければFRB頼み」の市場心理に、データ不足のFOMCが応えられるのか、はなはだ疑問だ。

景気後退は回避されよう、との定説も揺らぐ。

年末年始の株価大変動の余震に脅える市場心理は続きそうだ。

金価格は1288ドルから1292ドルのレンジで安定。安全資産。

市場のボラティリティーが高まると、金は買われ、低まると、売られる傾向がある。これは、日経の2019年金価格予測インタビューでも指摘したのだが、文字数限定の記事ゆえ、削除されていた。

なお、昨日は、米国人気投資家ジムクレーマー氏がI am a gold bug!

金は買いと発言して話題になった。最近、金鉱山会社の大型M&Aが二件続き、供給サイドの合理化が進んだことを評価している。株式市場目線の金買い論だね。産金業界では、採掘コストが安い鉱脈はほぼ開発済。これからは、リストラによるコスト削減で帳尻を合わせるほかない。(まぁ、月とか火星に金があったら別だけどね(笑)

 

ところで、今週号日経ヴェリタスは「マーケットには逆らえない」に対して、今週号週刊エコノミスト誌では私がカバー記事「騒乱相場」で「イエレン時代にはFRBに逆らうな。パウエル時代にはFRBを疑え」とコメント。結局、2019年利上げ回数について、従来のFRB予測3-4回が、市場予測0-2回に降りてきたことを示唆している点で共通。